「炭素繊維」世界シェア「7割」の技術力
初導入された高水圧で炭素繊維を切削する「ウォータージェット」=5日、滋賀県米原市の東レ・カーボンマジック(田村慶子撮影)
軽くて強い素材の「炭素繊維」を使った材料や部品の開発・普及が進んでいる。「究極のエコカー」といわれる燃料電池車の発売などを追い風に、軽量化による燃費向上の利点を生かして従来は鉄だった一部構造部材にも採用された。世界シェアの7割を占める日本企業3社は、耐熱性など技術開発を進めて活用領域を拡大し、中国などの新興勢力に対するリードを広げる構えだ。
*燃料電池車発売が追い風
「やっと(自動車の)構造部品に採用されるレベルまで持ってこられた」。東レの日覚(にっかく)昭広社長は、トヨタ自動車が今月15日発売する燃料電池車「MIRAI(ミライ)」に炭素繊維と樹脂の複合材料が使われた意義をこう強調した。炭素繊維は鉄よりも強度が10倍で重さが4分の1という特性を生かし、航空機などで採用が進んでいる。高級車の一部部品にも使われているが、部品への成形時間の長さやコストが課題だった。
ミライは、水素と酸素を反応させて電気を起こす燃料電池スタックを載せる床部分「スタックフレーム」など3カ所で、東レとトヨタが共同開発した炭素繊維部品を採用した。構造部品のスタックフレームは、熱で軟化する樹脂を使った炭素繊維複合材料を使い、成形時間を大幅に短縮。量産が可能になった上、走行時に石などが飛んでも耐えられる強度を備えながら重量を約3キロに抑えた。
また、高圧になる水素タンクや燃料電池スタックの基板材料にも、炭素繊維材料が採用されている。
日覚社長は、「自動車向け炭素繊維複合材料の採用拡大のため国内外の自動車メーカーなどと共同開発を進めているが、今回の取り組みでさらに一歩前進した」と手応えを語る。
東レは、今年3月までに買収した米炭素繊維製メーカー、ゾルテックの生産能力を平成32(2020)年までに倍増させることも検討している。
*帝人は耐熱性で勝負
一方、帝人は耐熱性を向上し、320度の環境でも使用できる炭素繊維複合材料を開発した。従来品は300度以上になるとゴム状の柔らかな状態に変化してしまうが、分子量などの調整で性質が変わる樹脂を改良。加熱時と冷却時の伸び縮みによる亀裂などを防ぎ、航空機や自動車などのエンジン周辺部品への活用を見込む。
炭素繊維は、炭素原子が多く含まれるアクリル繊維などを空気中で200~300度、無酸素状態で1000~2000度など数回蒸し焼きにし、余分な成分を取り除いてつくる。東レ、帝人、三菱レイヨンの日本企業3社は、焼く温度や時間、無酸素状態の作り方などで高機能な炭素繊維の生産技術を確立し、世界シェアで海外企業に大きく差を付けている。
ただ、中国や韓国、トルコなどの企業も近年、市場参入して競争が激化。炭素繊維の生産技術では将来的に追い付かれる可能性もあるが、「樹脂の改良や、部品にする成型技術によって新興勢力と差別化を図っていく」(帝人コーポレートコミュニケーション部)。
炭素繊維は航空機や燃料電池車のほか、発電用風車やスポーツ用品などで採用がまだまだ広がるのは確実。年率15%の伸びが見込まれる成長市場で、シェアをさらに拡大できるか-日本企業のもの作りが改めて試されることになる。(会田聡)2014.12.13 17:00産経ニュース
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