2014年12月15日月曜日

はやぶさ2とロゼッタ、どこが違う

日欧探査機 はやぶさ2とロゼッタ、どこが違う?
 日本の探査機「はやぶさ2」が12月3日、小惑星1999JU3を目指して種子島宇宙センターから打ち上がった。11月には欧州の探査機「ロゼッタ」もチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(すいせい)に着陸機「フィラエ」を降下させた。目標にする天体の違いで手法などの差が出るが、太陽系の歴史や生命の起源をめぐる研究を大きく前進させる期待は共通だ。

■太陽系誕生の歴史、考え方に大きな変化
はやぶさ2は小惑星の岩石を採取して地球に持ち帰る(JAXA提供)

 彗星や小惑星などの小天体探査に注目が集まるのは、この数十年で太陽系の歴史に対する考え方が大きく変わってきたことが背景にある。かつては太陽を取り巻くガスの集まりから地球や木星などの惑星が生まれ、太陽に近い地球などは太陽の影響でガスが吹き飛ばされて岩石の部分だけが残ったと考えられていた。

 しかし最近はまず、木星などガスでできた巨大な惑星が誕生、その後に地球などはガス雲のなかでできた微惑星と呼ばれる小さな岩石などの塊が集まってできたと考えられている。小惑星や彗星はそうした微惑星の時代にできた天体が現在まで残ったもので、ともに太陽系が生まれた初期の成分や様子を残していると期待される。
 ただ小惑星は岩石が主成分で、彗星は氷に岩石のチリが混じった「よごれた雪玉」だ。氷は太陽に近い場所では残らないので、彗星は小惑星に比べてより太陽から遠い場所でできたことになる。小惑星と彗星の両方を調べることで、太陽系全体の初期の様子がより詳しくわかるわけだ。

■はやぶさ2は岩石持ち帰り、ロゼッタはデータを収集・送信
 はやぶさ2が目標にする1999JU3は小惑星の中でも炭素を多く含むC型とよばれるタイプで、有機物や水なども含むと期待されている。ちょうど初代はやぶさがかけらを回収したタイプの小惑星と彗星の間をつなぐ成果が期待されている。

 大きく探査の手法が違うのは、はやぶさ2が小惑星の岩石などを地球に持ち帰ることを目標にしているのに対して、ロゼッタは彗星にとどまってその場で観測、分析してデータだけ地球に送ることだ。これには調べる天体の性質が影響している。

 はやぶさ2が小惑星から持ち帰る岩石と違い、ロゼッタが調べる彗星の主成分は氷だ。どのような元素や分子が含まれているかだけでなく結晶構造なども重要な情報だ。彗星の破片を採取しても、地球に降下する際にさらされる高熱から守るだけでなく、無事に降下してからも溶けないように温度を宇宙空間と同様に低く保たねばならない難しさがある。

■ロゼッタは着陸機の中に10種類の装置
 もちろんはやぶさ2でも、回収カプセルが地球の大気圏に再突入するタイミングや角度を間違えると流れ星と同じように燃え尽きてしまう危険がある。米国やロシアなどの核保有国は有人宇宙船の帰還だけでなく、大陸間弾道ミサイルの弾頭を目標まで送り届けるために、こうした再突入の技術を持っている。有人宇宙船も軍事利用もない日本が初代のはやぶさで再突入を成功させた意味は大きい。

 地球にサンプルを持ち帰ることで最新の分析機器を使ってサンプルを調べることができる。ロゼッタの場合は打ち上げられたのが2004年と10年前であることに加え、100キログラムの着陸機フィラエの中に約10種類の観測・分析機器や通信装置などを詰め込まねばならない制約がある。しかしはやぶさ2の場合、持ち帰った岩石などのサンプルを最新の分析機器を使って分析できる。

 目標とする小惑星や彗星は、惑星や月に比べるとはるかに小さい天体なので正確に接近するには通常の電波による誘導だけでなく、カメラで撮影した画像と星の位置を比較するなど細かな誘導が必要になる。加えて、はやぶさ2もロゼッタも目標に到達してから1年以上もの間、小惑星や彗星とともに太陽を回って観測する計画だ。

■はやぶさ2 小惑星の重力弱く、周回軌道描けず
 ただ、はやぶさ2が目標にしている小惑星1999JU3は、ロゼッタが到達したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星よりさらに小さい。彗星は長い場所で約4キロメートルの幅があるが、小惑星はわずかに900メートル弱しかない。1999JU3の重力はチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に比べても格段に弱いので、はやぶさ2はロゼッタと違い小惑星の周りを回ることはできないという難しさもある。
 はやぶさ2は本体が小惑星の岩石などを採取するが、機体を小惑星に固定するわけではない。あらかじめ銅の弾丸をぶつけて作ったクレーターに一瞬だけ着陸し、岩石を採取するとすぐにまた離陸する。

 ロゼッタは着陸専用に搭載していた子機のフィラエを彗星の上空で切り離してゆっくりと降下。フィラエは機体を彗星に固定するため、着陸すると同時に彗星にアンカー(いかり)を打ち込む予定だった。しかしアンカーを打ち込む装置がうまく作動せず、いったん着地した後に跳ね返って予定した地点とは違う場所に降りてしまった。

着陸機フィラエが撮影したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の表面(ESA提供)

■ロゼッタ、現在も観測を継続中
 ロゼッタの着陸機フィラエは彗星に着陸した際に目標地点からずれ、太陽電池に光が当たりにくくなったために現在は休止中だ。しかし内蔵電池が切れるまでの約3日は彗星に穴を掘って内部の物質を取り出し、分析するなどの調査を無事に終えた。これまでに彗星の地表付近に薄く大気が存在し、その中に有機物が含まれることなどがわかるなどの成果をあげ、詳しい分析が進行中だ。

 またロゼッタ自体は彗星とともに太陽に近づきながら現在も観測を続けている。彗星は15年8月に最も太陽に近づくが、彗星がガスを吹き出す様子などを観測できるはずだ。太陽に近づけばフィラエの太陽電池に日が当たる時間が増えて活動を再開できる期待も残っている。


 一方のはやぶさ2は順調にいけば18年に目標の小惑星1999JU3に到達。岩石などを採取して20年に地球に戻る予定だ。はやぶさ2とロゼッタの探査がともに成功裏に進み、太陽系の歴史が明らかになることを期待したい。2014/12/15 7:00 日経 小玉祥司

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