2015年7月8日水曜日

星空を超えて 現代天文学の技術と意義

星空を超えて 現代天文学の技術と意義
*ハッブル宇宙望遠鏡=NASA提供

(CNN) 夕暮れ時の空を見上げて、とても明るい星を見つけたことはあるだろうか。もしあれば、それはきっと金星だ。金星はこれまで数多くの探査機の目的地となり、宇宙に浮かぶハッブル宇宙望遠鏡もその姿を観察してきた。
天文学は、太陽や月の動きを追い、星座の形から神話が生まれた大昔から人類の想像力をかき立てた最古の科学の1つだ。天文の不思議に驚く感性は現代でも衰えておらず、子どもから大人まで多くの人が、天文台やプラネタリウムを訪れたり、宇宙探査機が撮影した画像をダウンロードしたり、機会があれば望遠鏡で夜空を観察したりする。
そして、技術を極限まで高め、かすかな信号をとらえ、複雑な手法を用いて、われわれが決して行くことはないであろう世界、星、銀河団のモデルを構築するのが天文学だ。
だが、その学問を構築し実証していくのは相当の困難を伴う。その一例が、米国の天文学者エドウィン・ハッブルにちなんで名付けられたハッブル宇宙望遠鏡だ。
ハッブル宇宙望遠鏡の建設は1970年代末に始まり、米航空宇宙局(NASA)のスペースシャトルで宇宙に輸送する準備が進められた。チャレンジャー号の爆発事故で打ち上げが遅れたが、1990年にようやく運用が開始。打ち上げ直後に天体の光を集める鏡にゆがみが見つかり、3年後に別のスペースシャトルの乗組員が修正装置を設置し、この欠陥を修理した。この4月には25周年を迎えた。

このようにさまざまな困難に見舞われハッブル望遠鏡だが、その後天文学に変革をもたらした。地球から望遠鏡で宇宙を見ると大気の影響でぼやけて見えるが、ハッブル望遠鏡は大気圏外にあるため鮮明な画像の撮影が可能だ。
いまだ謎に包まれている「暗黒エネルギー」により、宇宙の膨張が加速していることの解明がハッブル望遠鏡での観察で進んだ。また、太陽以外の恒星で惑星が形成されている画像を送ったり、ほぼすべての銀河の中心に巨大なブラックホールが存在することも示してきた。

そして今、ここで利用された技術はわれわれの日常生活のさまざまな面に影響を与えている。
ハッブル望遠鏡にはCCD(電荷結合素子)と呼ばれるデジタルセンサーが搭載されている。このCCDは、写真乾板よりもはるかに高い感光性を持つ。天文学者はCCDの「初期導入者」だが、今や歯科医やがん専門医も同様のセンサーを利用している。さらに、携帯電話に搭載されているカメラのほぼすべてにCCDが使用されている。
また、このCCDを搭載した新たな検出器は、膨大な量のデータを生み出すため、広範な分析が必要となる。例えば、チリのVISTA望遠鏡が一晩に生み出すデータ量は300GB以上と、音楽CD約600枚分に相当する。

*ハッブル望遠鏡が撮影したアンドロメダ銀河(M31)の一部=NASAESA
この規模の「ビッグデータ」の処理は、ボランティアの「市民科学者」の支援で行われている。最も有名な例の1つがGalaxy Zoo(銀河動物園)だ。このプロジェクトでは、数十万人の協力を得て、銀河の形状を分類している。
このような分析で使われた技術も医療分野で生かされている。ケンブリッジ大学天文学研究所と腫瘍(しゅよう)学、病理学の研究者との共同プロジェクト「PathGrid」では、天文学向けに開発された高度な画像分析・データ処理技術を医療分野に応用。病院のX線技師による悪性腫瘍の発見を支援し、腫瘍除去手術の容易化、迅速化を図っている。
電波天文学の分野では、電波望遠鏡「スクエア・キロメートル・アレイ(SKA)」の数千個のパラボラアンテナと数十万個の検出器がオーストラリアとアフリカ南部に設置される。今後、この超高感度望遠鏡を使って、暗黒エネルギーの調査やアインシュタインの相対性理論のテストなど、天文学のより大きな疑問の解明に向けた取り組みが行われる。
このSKA向けに開発された技術が、世界に変革をもたらすほどの斬新な技術であることは想像に難くない。この望遠鏡を機能させるには、現代世界のインターネット通信量の100倍に相当する膨大なデータフローを処理するネットワークの構築と、遠隔の砂漠でほとんど保守・管理を必要としない電源開発が必要になるだろう。

これが実現すれば、インターネットへの接続性の飛躍的な向上や、今日のエネルギー消費型のインフラも不要につながる可能性もある。1990年代には、電波天文学者がWi-Fiネットワークを発展させた実績もある。
天文学者の多くは生活に役立つ技術の開発に直接取り組んでいるわけではないが、このように天文学の技術はわれわれの日常生活のさまざまな場面で役立っている。
そして天文学は、われわれに日常の事柄を忘れさせ、自分たちが巨大な世界のほんの小さな一部であることを思い出させてくれる。これこそが天文学のような学問の存在を正当化する最良の理由かもしれない。天文学にまつわる大きな疑問に触れたり、美しい夜空を見て、科学全体について、これまでよりほんの少し深く考えてみることは悪くないだろう。2015.07.04 Sat posted at 09:30 JST 

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