線虫、においでがん判別 患者の尿「1滴あれば検査可能」 早期でも的中
生物学の実験によく使われる線虫の一種「シーエレガンス」が、人の尿でがんかどうかを識別できるという研究結果が発表された。「好きなにおい」に近寄る習性を利用したもので、早期の発見も可能だという。体長1ミリほどの小さな生き物の可能性を探った。【下桐実雅子】
* 「線虫で、がんかどうか分かるのではないか」。2年ほど前、九州大の広津崇亮(たかあき)助教(神経科学)の元を、がんのにおいをかぎ分ける「がん探知犬」の研究をしていた園田英人医師が尋ねてきた。意外な提案だったが、線虫をモデルに嗅覚の研究をしてきた広津さんは興味を持ち、共同研究を始めた。
まず試しに、線虫の一種「シーエレガンス」を入れたシャーレにがん細胞の培養液を垂らすと、多くの線虫は寄っていった。正常な細胞を使った場合や、嗅覚に異常がある線虫ではがん細胞に近寄らなかったため、においに反応していると考えた。
次に、がん患者の血液や尿に対する反応を調べた。血液には特別な反応は示さなかったが、尿には近寄っていった。健康な人の尿からは離れた。線虫には、においを感知する2種類の嗅覚神経細胞があることが知られているが、これらの細胞が、がん患者の尿に強く反応することも分かった。「線虫は細菌類を食べる。(患者の尿に)近寄るのは餌のにおいに似ているからではないか」と広津さんは推測する。
嗅覚が人間の100万倍以上とされる犬では、2000年以降、訓練によってがんのにおいをかぎ分けられることが報告されてきた。園田医師とがん探知犬を使った共同研究をしてきた民間企業「セントシュガージャパン」(千葉県館山市)の佐藤悠二所長は「がんの種類によって特有のにおいがあると考えられており、二つのがんで尿からにおい物質を見つけた」と話す。ただし、犬が感知しているにおい物質と、線虫が反応している物質が同じかどうかは分かっていない。
シーエレガンスの的中率はどのぐらいなのか。がん患者と健康な人計242人の尿に対する反応を調べたところ、がん患者24人中23人をがんと判定し、確率は95・8%。このうち12人は早期がんだったが、すべてがんと判別できた。一方、健康な人218人を「がんでない」と判定した確率も95%だった。犬と比べても遜色がない。
広津さんは「尿の濃度は10倍に薄めるのが最適。1滴あれば検査でき、胃がんや膵臓(すいぞう)がんなど、調べた範囲ではいずれのがんも見つけた」と話す。線虫は1匹が約300個の卵を産み増殖が早く、凍結保存も可能で扱いやすい。今後は実用化を目指すとともに、がんのにおい物質の特定や線虫ががんのにおいを感知する仕組みの解明などにも取り組むという。毎日新聞 2015年07月09日 東京朝刊
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