「地球の盾」地磁気、弱まる 有害な太陽風増え 寒冷化、大停電の恐れ
万葉集にもうたわれた筑波山のふもとに、1世紀以上にわたって地磁気を測り続ける気象庁地磁気観測所(茨城県石岡市)がある。近くに鉄などの磁性を帯びた物があるだけで測定結果に影響を及ぼすため、職員は計測機器のある建物に入るときには腕時計やベルトを外す。その徹底ぶりから、ここのデータは世界トップ級の精度とされる。
こうした観測所で機器による観測が始まった19世紀半ばに比べ地磁気は約10%弱まり、特にこの数十年で弱まり方が加速している。また、方位磁針が指す北の磁極は20世紀初頭にはカナダ北端にあったが、徐々に北極点に近づき、ロシア側に迫っている。
古い岩石に残された磁気の痕跡などから、過去360万年の間に11回、地磁気の南北の磁極が入れ替わり、その前後に地磁気がかなり弱まることが分かっている。地磁気観測所調査課の長町信吾さん(35)は、訪れた見学者に「1000年後には南北の磁極が逆転するかも」と説明した。
気象大学校(千葉県柏市)の藤田茂教授(宇宙空間物理学)は地磁気を「地球の盾のような存在」と例える。棒磁石の周りに砂鉄をばらまくと磁力線が筋になって浮かび上がるが、磁石の性質を持つ地球の周辺も似た状況だ。この磁力線が形成する地球磁気圏は、太陽風や宇宙線の主成分である電子や陽子などの電気を帯びた粒子を通過させにくい性質がある。
もしこのまま地磁気が弱くなると、磁気圏も小さくなる。その分、盾の効果が薄れ、地上付近に届く太陽風や宇宙線が増え、さまざまな障害を引き起こすと懸念される。
人工衛星に宇宙線が当たると、電子部品などが故障する恐れがある。国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士への健康影響も心配だ。宇宙線が強いと雲ができやすいという研究もあり、地球が寒冷化する可能性がある。
また、北磁極の移動などから今後、オーロラを発生させたり、送電網に異常電流をもたらして停電を起こしたりする範囲が日本付近に及ぶ可能性がある。北米では激しいオーロラが現れた1989年に、大停電も起きた。日本では東日本大震災を教訓に、万が一に備える機運が高まり、経済産業省の検討委員会は昨年、国内の送電網に問題がないか調査することを決めた。
藤田教授は「遠い将来、日本で年10日ほどオーロラが観測できるかもしれない。同時にインフラ障害も警戒する必要がある」と話す。毎日新聞 2015年05月28日
0 件のコメント:
コメントを投稿