耳の健康(1)聞こえの仕組み
*音は外耳、中耳、内耳を通り脳に到達し、音と認識される
人間の聴覚は母親の胎内にいるときから形成され始め、誕生後、母親の語りかけに顔を向けるなど、反応を示すようになる。
音を聞くということは、空気の振動を耳で受け止め、それを脳で理解し、音として認知する行為だ。
耳は、外耳、中耳、内耳の3つの部分から構成される。外耳の耳介(じかい)(耳たぶ)から入ってきた音は外耳道を通って増幅され、中耳の鼓膜を振動させる。その後、鼓膜に接した耳小骨から内耳の蝸牛(かぎゅう)に伝わり、音の強弱や高低を分析。聴神経を通って脳へ伝えられ、脳中枢で音として認識される。右耳から入った音の多くは左脳で処理され、左耳から入った音は主に右脳で処理される。
人間が聞き取れるのは、20ヘルツから2万ヘルツまでとされる。一般的な会話の音は500~5千ヘルツだ。犬が聞こえる領域は15~5万ヘルツで、人間が聞き取れない音域も認識できる。
人の発する音声が母音か子音かでも聞こえが違ってくる。母音は低音で音のエネルギーが大きいため、よく聞こえる。反対に子音は高音で音のエネルギーが小さく、聞こえにくくなりやすい。耳の聞こえが衰えてきたときには、子音が先に聞き取りにくくなる。
(2)年齢と難聴
*老人性難聴をチェック
人は年齢を重ねるごとに徐々に聴力が衰えてくる。個人差はあるが、一般的に30歳代を境に聞こえが低下するとされる。
65歳を過ぎると難聴を自覚する人の割合が急増。加齢による難聴は、初めは小さな音が聞こえにくくなり、やがて音がゆがんで響くようになり、言葉の聞き分けが難しくなっていくというプロセスをたどる。特に高音の子音が聞き取りにくくなり、「佐藤」と「加藤」、「広い」と「白い」のような聞き間違いを起こしやすくなる。このような老人性難聴は、内耳の音を拾う器官の蝸牛(かぎゅう)が衰えることが原因だ。
難聴は障害の部分によって感音難聴、伝音難聴、混合難聴の3種類に分けられる。老人性難聴は、内耳から脳までの間に障害が生じることによって起きる感音難聴の一種。伝音難聴は、中耳炎や鼓膜の損傷など、外耳から中耳の部分に障害があるために起きる。混合難聴は感音と伝音の難聴が同時に起きるものだ。感音難聴は医学的治療による改善は困難とされるが、伝音難聴は手術などの適切な治療法で治ることが多い。
リケン補聴器センター、マネージングディレクターの古橋文夫さんは「感音難聴でも突発性難聴の場合、早期に受診すればその後、回復する可能性が高い。しかし、加齢による難聴は回復が難しい。ストレスのない生活を送れるよう補聴器を利用してほしい」と話している。
(3)補聴器の機能と役割
補聴器に苦手意識を持つ人は多い。日本補聴器工業会が約1万4千人を対象に行った調査によると、国内の65歳以上の難聴者のうち、補聴器を使用している人は15%にとどまる。使わない理由として、「煩わしい」(42%)「使用しても元の聞こえには戻らない」(39%)「騒音下で役に立たない」(26%)-などが挙がっている。
補聴器はアナログ型からデジタル型に進化しており、現在普及している補聴器の9割以上がデジタル型だ。騒がしい場所で騒音を減らして会話音を聞き取りやすくしたり、側面や後方の雑音を減らして正面の言葉を捉えやすくしたり、デジタル型にはさまざまな機能が盛り込まれている。最近は、スマートフォンを補聴器のリモコンとして利用し、音量調節などができるアプリケーションも登場した。
補聴器は両耳装着が望ましい。片耳だけよりも音の方向や距離感がはっきりし、耳の疲労が少なくなるからだ。最初は短時間装着して耳を慣らし、徐々に時間を延ばしていくといい。
リケン補聴器センター、マネージングディレクターの古橋文夫氏は「補聴器は眼鏡のように、使えばすぐによく見えるようになる、というものではない。日常生活の中で聞こえる部分と聞こえない部分が認識できるようになれば、使いこなせているということなのです」と話している。(取材協力 リケン補聴器センター)2015.9.28
08:00 産経
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