2015年10月9日金曜日

謎の人類ホモ・ナレディ

謎の人類ホモ・ナレディ、手足は極めて異例だった
直立二足歩行、樹上生活、手で道具を扱うという3つの特徴を兼備
*ホモ・ナレディの曲がった指(左)は、類人猿のような木登りの巧みさを示唆する。一方、長い親指は道具を器用に使えたことを示す。足(右)は現生人類に非常によく似ており、効率よく直立二足歩行できたことが分かる。

 謎多き人類の祖先「ホモ・ナレディ」の手足の特徴を分析した結果が、106日付の科学誌「Nature Communications」に掲載された。
 南アフリカのライジング・スター洞窟で発見された化石人骨を基に、2つの研究チームが運動の様子を再現。いずれもナショナル ジオグラフィック協会の助成を受け、一方のチームは足の骨107個を、他方はほぼ完全な右手の骨26個をそれぞれ詳しく調べた。

 その結果、ホモ・ナレディの足は多くの点で驚くほど現生人類に似ていることが明らかになった。足首の関節、他の4本と平行になった親指、幅の広いかかとは、2本の脚で直立して効率よく歩く生活に十分に適応した生物のものだった。一方、土踏まずがそれほど発達しておらず、足指の骨が曲がっている点は類人猿に近い。
 曲がっている手の指は、ホモ・ナレディが軽々と木に登れたことを示す。同時に、長く力強い親指と衝撃を吸収できる手首で、道具を使いこなすこともできたとみられる(ホモ・ナレディの道具はまだ見つかっていないが)。
 このように対照的な特徴が混ざっている状態を、現生人類を含むヒト属(ホモ属)において科学者がはっきり目にするのは初めてのことだ。特に、ホモ・ナレディの樹上生活を強く示唆する点は異例である。

 ホモ・ナレディの足に関する論文の著者、米ニューヨーク市立大学リーマン校のウィリアム・ハーコート・スミス氏は、「彼らは、ヒト属の一員としては独特な運動の形態を有していました」と語る。「直立二足歩行」「木登り」「手で道具を扱う」という3種目で競う先史時代のトライアスロンがあったなら、彼らはきっと活躍できるだろう。

樹上生活はいつまで続いたのか
 人類は進化の過程で、いつ木から下り、大地を歩き始めたのだろうか。
 その判断はまだ難しい。アウストラロピテクス属として知られるルーシーなど、ごく初期の人類の祖先たちは、少なくとも400万年前には直立二足歩行をしていた。だが、樹上生活もまだ続けており、同時に石器も使っていた可能性がある。

 とはいえ、ヒト属の系統から見つかっている樹上生活の証拠は少ない。科学者たちは、「器用な人」を意味するホモ・ハビリスは約200万年前の時点でも木登りの能力を保っていた可能性があると推測しているが、根拠はわずかな化石の断片しかない。そんな中、ホモ・ナレディの手が物語るのは、彼らが驚くほど現代的な足で二足歩行をしながら、類人猿のように巧みに木に登る能力も保っていたということだ。
「人類の進化の大部分で、我々の祖先たちは歩行と樹上生活の能力を並行して活用しており、それが変化にうまく対応できた一因です」と語るのは、米ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のビル・ジャンガーズ氏だ。「ホモ・ナレディも例外ではありません」

年代にかかわらず異例
 ライジング・スター洞窟の人骨の年代測定はまだ行われていないため、ホモ・ナレディが人類進化の系統樹のどこに入るかは明らかではない。形態だけに基づくなら、初期のヒト属に近いように見える。ホモ・ナレディの手に関する論文の著者、英ケント大学のトレーシー・キビル氏は、「それが正しければホモ・ナレディの年代はおよそ200250万年前となり、道具の使用を容易にした手の特徴はこれまで科学者たちが考えていたよりも早く現れたことを意味します」と話す。

 一方、ホモ・ナレディが10万年前のような比較的新しい年代と判明すれば、現生人類と同時代に生きていたヒト科の種が、曲がった指などの原始的な特徴を保っていた(あるいは、独自に発達させていた)ことになる。キベル氏は「どちらのシナリオも非常に興味深い」と話している。2015.10.09 ナショジオ

0 件のコメント: