2013年7月28日日曜日

人工光合成


人工光合成 無尽蔵なCO2と水から工業原料生産 高い変換効率、世界をリード

研究進む人工光合成

 太陽光エネルギーは、地球に降り注ぐ1時間分だけで人類が必要とするエネルギーの1年分に相当する。「水の惑星」とも呼ばれる地球は表面積の約7割が水で覆われ、CO2は地球を温暖化させるほど増加が続いている。

 人工光合成は、これらの無尽蔵な資源から、燃料になるメタノールや化学製品の基礎原料となるエチレンなどの多様な物質を、原材料費ほぼゼロで生み出すことができる。

 研究は日本の独走状態だ。これまでは室内で疑似的な太陽光を使った実験にとどまっていたが、パナソニックは昨年12月、屋外の自然光での実験に成功し、単純な有機化合物のギ酸を作り出した。

 
 今年5月にはトヨタ自動車グループの豊田中央研究所(愛知県)も、方法や条件が異なる屋外実験でギ酸を生成。いずれも世界初の成功で、実用化への大きな一歩といえる。

 研究に火を付けたのは約2年前、大阪市立大の神谷信夫教授が発表した論文だ。植物が光合成で水を分解する際に、触媒として働くマンガンクラスターという物質の構造を初めて突き止めた。似た構造の触媒を作れば人工光合成が実現に近づくため、世界中で競争が始まった。

 
 実証実験に世界で初めて成功したのは豊田中央研だ。平成23年9月、ギ酸を生成。太陽光エネルギーの変換効率は植物(0・2%)の5分の1の0・04%だったが、現在は0・14%に向上しており、28年度末に1%を目指す。

 パナソニックは異なる条件で昨年7月、植物と同じ0・2%の変換効率を初めて実現。生成物はギ酸だったが、現在は触媒の改善で「効率は約2倍に向上し、メタノールやエタノール、エチレン、メタンも生成できた」(同社)という。

  目覚ましい進展の背景には、国を挙げての支援がある。その素地を作ったのは22年のノーベル化学賞に輝いた根岸英一・米パデュー大特別教授だった。受賞直 後、根岸氏は「資源が乏しい日本は人工光合成に注力すべきだ」と文部科学省幹部に直談判し、国家プロジェクトを立ち上げた。

 
 低コスト化や大規模な装置開発など課題は多いが、神谷教授は「新触媒を開発し、42年にメタノールの効率的生成を実用化したい」と話す。欧米や中国、韓国の追い上げは激しいが、実用化でも日本が優位性を確保し、エネルギー革命や経済成長につなげることが期待される。

  植物の光合成のように、太陽光のエネルギーを使って水と二酸化炭素(CO2)から有機物を作る「人工光合成」の研究が加速している。地球のありふれた物質から、燃料や工業原料を生み出す夢の技術だ。自然光を使った屋外実験や、植物並みの高い変換効率など国内企業による世界初の成果が相次いでおり、日本の新たなお家芸になりそうだ。(伊藤壽一郎)2013.7.28 07:00 産経ニュース

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