砂漠に水を? 6
グリーンテクノロジーへの期待
砂漠の地下水脈
これまでは海水の淡水化と空ばかり眺めていたが、ここに至って発想の転換をした。地下水の利用状況と可能性をみてみた。砂漠の近くに積雪量の多い山があると、雪どけ水は、土壌深くに浸透し、砂漠土壌の下にある水を通しにくい粘土層に達して、砂漠の地下に溜まる。この水が蒸発したあとの砂は、塩が残るため白くなるが、これが「砂漠で水の出る場所」の一つの目印となる。深層に蓄えられた水量豊かな地下水が湧き出すところ、これがオアシスとなる。
さらにまた、砂漠の砂の下には岩盤があり、氷河や万年雪を頂いた山々の雪解け水や、熱帯雨林を水源とする大河がその岩盤の間で地下水脈を作っている事がある。
たまたま地形的にその地下水脈層が100mくらいの浅いところに来ている場所では、自然に湧き水が出たり、人間が井戸を掘ってカレーズという地下水溝を遠くまで引いたりして人の住める集落を作ることができる。
砂漠はとても浸透率の高い砂の海なので、雨が降ってもあっという間に吸い込んでしまう。つまり、場所にもよるが、ある程度以上の降雨のある砂漠では、地下に莫大な量の水脈を抱えていることになる。
砂漠でも夜間には風に乗ってきた空気中の水分が夜露となって下る。ちなみに砂漠の植物や虫や爬虫類などは、この夜露を体に結露させるなどして生きている。サボテンの場合は、海などからやってきた「朝露」などを吸収して生きている。サボテンのあの棘は、敵から身を守るためだけでなく、身体の表面積を増やして朝露を吸収しやすいようにしているのである。
このように、サボテンや多肉植物は、1年に12,3mlくらいしか降らない雨を、体の中にものすごく溜め込めるように細胞が発達したものである。
カナート~張り巡らされた地下水路
水がないと思われている乾燥地帯であるが、人は水を得るためにさまざまな工夫を凝らしてきた。乾燥地帯で広くおこなわれている取水方法がカナートという地下水路である。カナート(ギリシャ・ペルシャ・アラビア)、カレーズ(アフガニスタン・パ キスタン)、フォガラ(アルジェリア・ナイジェリア)、フォラジ(オマーン)、レッタラ(モロッコ・チュニジア)、坎児井(カンアルチン/中国・中央アジ ア)など、地域によって呼び名は変わるが、基本的にシステムはどこも同じである。カナート発祥の地とされるイランでは、紀元前8世紀には既にカナートが 造られていたといわれている。
カナートを造るには、最初に地下の帯水層に届く第一の井戸(母井戸)を掘る。次に母井戸の横から伸びるトンネルのような地下水路を造って水を導き、地下水道上に数10メートル~数100メートル間隔にいくつもの縦穴を設けていく。トンネルを地中深くに造ることで、砂漠の太陽による蒸発から水を保護することができる。このトンネル部分は、メンテナンスのために人が歩けるようになっている。また、水路に緩やかな傾斜をつけることで、水源から遠く離れた場所まで動力なしで水を流すことができるようになる。
乾燥地の街にはカナートが張り巡らされており、トルファン(吐魯番/中国)では、その数1000以上、総延長3000キロメートルになるといわれている。1本のカナートの規模は地域によって異なるが、モロッコやイランのように40キロメートル以上の長距離のものもある。
しかし、カナートは建設も大変なら、維持と管理も大変である。土砂の掘削に非常に時間がかかるだけでなく、縦穴部分に蓋がないため、年に数回は落ちた土砂をさらう必要がある。また、水害が起こった場合、そこを掘り直さなければ機能しなくなるし、水源の水位が下がれば、母井戸も掘り下げる必要がでてくる。
地下水
アラブ首長国連邦(UAE)は、一面見渡す限りの砂漠の国であるが、砂漠の地下にも地下水はある。アラインという街のそばの砂丘地域では、地下50mくらいの井戸から地下水を揚水しており、生活用水として使用されている。
また、サハラ砂漠のリビア南東部,エジプトとの国境近くのクフラ・オアシスには「円形農場」がある。この農場地域はリビア最大級の農場プロジェクトのひとつとして建設された。
この農場はピボット灌漑式あるいは回転散水式と呼ばれ、中心部で地下水を汲み上げ、そこを軸に巨大なスプリンクラーがゆっくりと回転しながら灌漑を行なう。そのため農場が円形をしているわけである。ここの円形農場の直径はおよそ1 kmある。したがってスプリンクラーの長さは約500 mというとてつもない大きさである。ここでは小麦やアルファルファといった作物が栽培されており、農作物の生育状況の違いによりそれぞれ異なった色を呈する。
リビアでは,作物の栽培に必要な降水量が得られる地域は国土のたった2パーセントしかないため、ここの灌漑には地下水を利用している。降水量の少ない砂漠でも地下水があるのかな?と思うが、ここで利用している水は、砂漠がまだ緑豊かだった1万年以上前の雨水が地層の中に閉じ込められたもので、「化石水」とも呼ばれている。砂漠の中に緑色の円がいくつも集まる様子は、地球を周回する国際宇宙ステーションから見てもよく分かる地上の風景のひとつである。
このように、世界中の砂漠もコストさえかければ農地や牧草地にできる。砂漠であっても、深く掘ると水が出てくるからだ。砂漠を1000mも掘ったら、昔は森林や草原が広がっていたとされるアフリカのサハラ砂漠をはじめ、オーストラリアのグレートサンディ砂漠、アメリカのミシシッピ川以西の乾燥地帯、黄河が干上がって砂漠化した中国の北京以西など、たいがいの所で水が出てくる。コストが高いから、まだやっていないだけである。近い将来人口70億と予想され、コスト高でもペイする時代がやってくるのかも知れない。
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