2015年8月13日木曜日

冥王星、新たな謎

冥王星、新たな謎 新しい地形造った熱はどこから?
*数字で見る冥王星

 米航空宇宙局(NASA)の無人探査機「ニューホライズンズ」が7月、冥王星に1万2500キロまで接近した。人類が初めて間近に見た冥王星の素顔は「凍(い)てついた星」のイメージとはほど遠く、研究者の予想を超える発見とともに新たな謎も生まれている。【伊藤奈々恵】

 公開された冥王星の画像で人々の目を引いたのが、大きな白いハート形の地形だった。ハート形は東西方向の全長が約1600キロと、冥王星の直径の3分の2もあった。NASAのチームは、冥王星を発見した米天文学者トンボーにちなみ、「トンボー領域」と非公式に名付けた。
 トンボー領域をクローズアップした画像を見て、研究者たちはさらに驚いた。領域の西の端には、高さが3500メートルもある富士山級の山々がそびえ立っていた。領域の西半分は氷の平原で、大きなうろこ状の模様が広がっていた。

 探査前、冥王星は既に地質的な活動を停止し、表面は多くのクレーターがそのまま残っていると考える専門家が多かった。だが氷の平原にクレーターはほとんど見られず、最近1億年以内に起きた地質活動によってできた新しい地形だと考えられている。国立天文台の渡部潤一副台長(惑星科学)は「冥王星にこんなにも新しい地形があるとは思わなかった」と話す。
 冥王星の内部は、岩石の核を氷が包んだような構造だとされる。氷の主成分は水だが、窒素やメタンも含んでいる。地表は氷点下230度の極低温だが、地下に何らかの熱源があれば、窒素やメタンがまず溶け出して表面にあふれ、クレーターを埋めていくと考えられる。

 大きな謎は、こうした現象を引き起こす熱がどこから来るかだ。地球の場合、地下に含まれる放射性元素の崩壊が熱源になっているが、冥王星ははるかに小さいため、放射性元素をとっくに使い果たしてしまったと考えられてきた。渡部さんは、氷の断熱性が高いため、内部の熱が保たれた可能性を指摘する。
 もう一つの可能性は、衛星カロンの潮汐(ちょうせき)力だ。月の引力によって地球で潮の満ち引きが起きるように、冥王星の地下にもカロンの引力が働き、その摩擦によって熱が生まれる。このほか隕石(いんせき)の衝突でいったん溶けた氷が固まって平原ができ、盛り上がったクレーターの縁が山々として残った−−なども考えられるが、渡部さんは「今はクリアな説明はできない」という。


 一方、杉田精司・東京大教授(比較惑星学)は、表面の氷の組成が緯度ごとに異なる点に注目し、「冥王星が複雑な歴史を経てきたことがうかがわれる」と指摘する。探査機は地球から遠く離れ、通信速度が遅いため、すべての観測データが届くのは来年11月ごろ。「新発見」と「新たな謎」はまだまだ続きそうだ。毎日新聞 20150813日 東京朝刊

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