2008年7月27日日曜日

こんな研究をやっています1/4


こんな研究をやっています1/4

~アルツハイマー症への貢献と体内宅急便を目指して~

 これは昨年xx大学薬学部「公開講座」の際に用意した講演要旨です(2007.10記)。

一般向けにできるだけ平易に書いたつもりです。4回に分けて掲載します。初回分です。


はじめに

 一般に大学は教育研究機関であると認識されています。それでは、大学薬学部における研究はどうあったら良いのでしょうか?薬剤師養成教育の見直しのため薬学部が6年制に移行した現在「研究の位置づけ」はどのように変わるのでしょうか、あるいは、変わらないのでしょうか?

 研究活動は教育の一環としてon-the-job trainingとして位置づけられる一方、学位授与機関として最先端の成果を求められています。そして、その内容は当然のことながら世界の舞台で問われ評価されます。我々大学で禄を食む者が常に自らに問いかけている課題であります。

さらに我々の研究活動が文部科学省科学研究費という税金と授業料という浄財によって成り立っている以上、何らかの形で報告し世に問うアカウンタビリティを意識せざるを得ません。

ひと口に研究といっても、基礎研究、トランスレーショナルリサーチ、限りなく出口に近い研究等々様々であります。ここでは、過去数年間我々の研究室でささやかながら推進してきたアルツハイマー症、並びに、標的化薬物送達法に関する基盤的研究の一部につき、その概要を紹介し、その責を果たしたいと思います。


1)アルツハイマー症(AD)原因物質に関わるもの

 ドイツの病理・精神医学者Alois Alzheimerが一女性患者の異状に触発され、認識、行動、経過をつぶさに記録し、死後患者脳の顕微鏡的変化などをまとめ報告してから100年を経ました。 
 AD
は脳の神経細胞そのものの機能が低下し死滅する進行性の神経疾患です。記憶障害がいつとはなしに発症して徐々に進み、認知機能が全般的に低下し痴呆・認知障害をきたします。さらに進行すると歩行障害や嚥下障害などの神経症状が現れ、感情活動も乏しくなり、無関心、無表情の状態になります。高齢になればなるほど発症率・有病率が高くなります。 

 いわゆる痴呆は大きく分けて脳血管性のものとアルツハイマー型のものに分けられますが近年、アルツハイマー型の認知症が脳血管性認知症の数を上回っているという統計があります。ADは若年性で発症するものと老年期に発症するものがありますが、いずれも人格崩壊、徘徊、知的障害を伴い、高齢化が進行する日本では根本的な治療薬の開発が急務となっています。原因については、アミロイドベータ(Ab)ペプチドや異常タウ蛋白が関与していると考えられています。

AD患者の脳には老人斑という沈着物が見られ、その主成分はAb39-42個のアミノ酸からなるペプチド)が凝集・線維化したものです。ADの病理過程の仮説として、まずAb長時間かかって凝集して脳内沈着を起こし、これがきっかけとなって神経細胞が死滅するというアミロイド仮説が知られています。注目すべきは一分子のAbそのものには神経細胞毒性は認められず、凝集・線維化することによって毒性を示すと言われている点です。

(2007.10記) 

次回へつづく


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