皆既日食:サル「異常行動」/気温最大1.6度低下/高度60キロ超、大気に異変
◇日食異変
46年ぶりの皆既日食という世紀の天文ショーが起きた22日、日本ではさまざまな変化が確認された。サルがねぐらに帰ろうとする異常行動が観察さ れ、GPS(全地球測位システム)の精度を左右する上空の大気に異変が生じた。鹿児島県奄美地方などでは気温が最大1・6度低下した。太陽が地球環境や生 物に与える影響の大きさが明らかになった。【足立旬子、山田大輔、石塚孝志】 2009/07/23 毎日
◇サルも警戒「異常行動」
太陽が最大で約80%欠けた日本モンキーセンター(愛知県犬山市)では、アフリカ・マダガスカル原産のワオキツネザルと、南米アマゾン原産のダス キーティティの2種のサルが、日食中にねぐらに帰ろうとしたり、外敵を警戒する鳴き声を出し続けた。ニホンザルなど他の70種は普段通り。日食時のサルの 行動は不明で、種による比較は初めてという。
ワオキツネザル10頭は、太陽が最も欠ける直前の22日午前11時から15分間、えさ場からねぐらに帰ろうと仲間を呼び合う声を出し、寝小屋前に 集まった。普段の夕方の行動だという。今春生まれた赤ん坊4頭も、親の背中にしがみ付きながら、親を探す「ピー、ピー」という声を不安げに出し続けた。
ダスキーティティ2頭は日食開始約20分後の同10時10分から7分間、タカやジャガーなど外敵の接近を仲間に知らせる「グェグェ」という声を、並んで右往左往しながら出し続けた。27年間の飼育で初の異常行動という。
加藤章園長は「渡り鳥も日食時に群れが乱れるなどの異常行動が知られている。サルも日食時に電磁波などの変化を感じ取ったのかもしれない」と話す。
◇気温は最大1.6度低下
気象庁によると、皆既日食があった鹿児島県奄美地方の一部地域では、気温が一時的に1~1・6度下がる現象がみられた。
鹿児島県・喜界島では午前10時の気温は30・1度だったが、同11時には28・5度に下がり、皆既日食が終了した正午には再び29・3度に上がった。
同県・名瀬でも午前11時の気温が1時間前より1・1度下がり30・4度、約9割が欠けた那覇でも同11時の気温が、1時間前より1・5度下がり29度になった。
東京都心では太陽が75%欠けたが、厚い雲に覆われた状態で、気温の低下はみられなかった。
気象庁天気相談所は「日照時間が減り、気温が下がったのではないか」としている。
◇高度60キロ超、大気に異変
情報通信研究機構(東京都小金井市)は大気の異変を突き止めた。高度60~400キロの「電離圏」では、窒素や酸素が太陽からの紫外線を浴び、電 子の層ができている。この電子の密度変化が、短波放送やカーナビなどに使われるGPSに使われる電波に影響を与えていることが知られている。
同機構が電子密度を分析したところ、日食が始まる午前9時過ぎから減り始め、皆既日食の午前11時前後には沖縄上空で3~4割、本州の上空で2~3割それぞれ減少した。
地上に届く人工衛星からのGPS電波への障害などは見られなかったが、村田健史・宇宙環境計測グループリーダーは「事前に計算したシミュレーションの結果とよく一致している。この結果をGPSの精度向上に役立てたい」と話す。
◇次回こそ
日本では今後30年間に皆既・金環日食が3回、皆既月食が17回観測できる。直近の日食は九州-南東北の太平洋岸で観測できる2012年の金環日 食。月の影の外側に太陽が細いリング状に見られる現象で、日本では1987年9月23日に沖縄で見られて以来25年ぶり。2030年の金環日食は北海道の ほぼ全域で見られる。
その次は35年9月2日の皆既日食。月が太陽に近いと金環日食、月が地球に近いと皆既日食になる。
一方、月全体が地球の影に隠される皆既月食は、皆既日食と異なり、月が地平線上にあればどこからでも観測できる。【元村有希子】
◇貴重なデータ収集--渡部潤一・国立天文台天文情報センター長
硫黄島近海の太平洋の船上で、皆既日食を観察した。注目したのは、太陽の一番外側の薄い大気「コロナ」の形だ。太陽活動が活発だと全体に広がる。現在は最も活動が弱い極小期に入り、東西に広がることが予想された。
午前11時25分ごろ、ほぼ真上の位置で皆既日食が始まり、約6分40秒続いた。好天に恵まれ空気が澄んでいたため、白く透明なコロナがはっきりと見えた。過去4回コロナを見たが、これほどはっきり見えたのは初めてで東西方向への広がりが確認できた。
太陽には、謎が多い。表面温度は約6000度だが、コロナの温度は100万度以上もあるのはなぜか。今回、国立天文台のチームは、硫黄島でコロナを観測した。今世紀最長の6分を超える皆既時間を使い太陽の姿を解明する貴重なデータを集めたはずだ。
日本列島は悪天候で見られない人も多かったと思う。だが2012年には東京、名古屋、大阪などで金環日食が見られる。日食グラスを買った人は、3年後を楽しみにとっておいてほしい。(談)
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■今後30年間に日本で見られる日食
◇2012年5月21日 金環日食
九州南部、四国、近畿、東海、関東、南東北の太平洋岸(東京で7時32分ごろ)
◇2030年6月1日 金環日食
北海道のほぼ全域(札幌で16時54分ごろ)
◇2035年9月2日 皆既日食
石川、富山、新潟、長野、群馬、栃木、埼玉、茨城など(前橋で10時06分ごろ)
※国立天文台の資料をもとに作成
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■今後30年間に日本で見られる皆既月食
2010年12月21日 17時17分
2011年12月10日 23時32分
2014年10月 8日 19時55分
2015年 4月 4日 21時00分
2018年 1月31日 22時30分
2021年 5月26日 20時19分
11月19日 18時04分
2022年11月 8日 20時00分
2025年 9月 8日 3時13分
2026年 3月 3日 20時34分
2029年 1月 1日 1時53分
2032年 4月26日 0時15分
10月19日 4時03分
2033年 4月15日 4時14分
10月 8日 19時56分
2037年 1月31日 23時01分
2039年12月 1日 1時57分
※群馬県立ぐんま天文台調べ。時刻は皆既が最大になる時刻
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