“宇宙膨張の決定的証拠”は誤り?
初期宇宙の成り立ちを説明する“決定的な証拠”が発見され、高い評価を受けていた。ところが、この発見は間違いだったのではないかという風評が広がっている。
BICEP2(手前)、南極点望遠鏡と沈みゆく太陽
3月、ハーバード大学のジョン・コバック(John Kovac)氏率いるBICEP(Background Imaging of
Cosmic Extragalactic Polarization)2チームが、アルベルト・アインシュタインが予言した宇宙の“重力波”の観測に成功したと発表し、世界中で話題をさらった。宇宙は誕生直後から指数関数的に膨張したという通説が裏付けられたかに思えた。
研究チームは南極の望遠鏡で観測を行い、ビッグバンの名残である宇宙マイクロ波背景放射(CMB)と交差する驚くほど強力な重力波の痕跡を発見したと報告した。CMBは天空の全域に広がっている。
現在、この主張が批判にさらされている。フランス、オルセー理論物理学研究所(Laboratory of
Theoretical Physics of Orsay)の物理学者アダム・ファルコウスキー(Adam Falkowski)氏は12日、素粒子物理学をテーマにしたブログで、「専門家はBICEP2チームの間違いをはっきり指摘している」と発言している。
◆争点はちり
ファルコウスキー氏の指摘は基本的に、天の川銀河のちりから放出されるマイクロ波の影響と天空の全域に広がるちりから放出されるマイクロ波の影響を混同しているというものだ。CMBと交差する重力波を観測したと主張する場合、2種類のマイクロ波を慎重に区別し、分析の対象から外さなければならない。
BICEP2チームは“間違いを認めた”とファルコウスキー氏は主張しているが、コバック氏とチームの一員であるミネソタ大学のクレメント・プライク(Clement Pryke)氏は「Science」誌と「New Scientist」誌で否定している。プライク氏は「Science」で、ファルコウスキーの主張は“全くのでたらめ”だと切り捨て、研究結果を覆す意思がないことを明確にしている。
ただし、プライク氏は同じ「Science」で、チームが作成したちりの地図はある学会の発表に基づくもので、ヨーロッパの人工衛星プランクが観測した公のデータに基づくものではないとも述べている。これが研究結果を不透明にしているのは確かだ。
とはいえ、南極での観測は比較的ちりが少ない条件だったと思われる。また、コバック氏は4月にマサチューセッツ工科大学(MIT)で研究結果を発表した際、BICEP2が続けている観測の初期の結果も重力波の発見を裏付けるものだと示唆している。
◆揺らぐインフレーションの証拠
アメリカ、ボルチモアにあるジョンス・ホプキンス大学の物理学者マーク・カミオンコウスキー(Marc Kamionkowski)氏は、衝撃波の観測は“インフレーションの動かぬ証拠”だと評価している。インフレーション理論では、初期の宇宙が誕生から1秒足らずで想像を絶する大きさまで膨張したと想定されている。
BICEP2チームが発表した研究結果は4月にもインターネット上での批判を切り抜けている。チームが観測したという重力波は実際には銀河の“電波のループ”が生み出したものだと、3人の宇宙学者が主張したときだ。この批判は収まり、新たなうわさに取って代わられたようだ。
10月には人工衛星プランクのチームがCMBの最新の地図を公表することになっている。BICEP2チームが観測した重力波の影響が確認されれば、現在の争いも収束するだろう。南極やチリでは同様の目的で別の研究が進められている。BICEP2チームの研究結果を最終的に裏付ける発見があるかもしれない。Dan Vergano, National Geographic
News May 15, 2014
0 件のコメント:
コメントを投稿