2億年前の巨大隕石 衝突の証拠、日本で発見 広島型原爆の30億倍、生物大絶滅の引き金か
約2億年前に地球に衝突した巨大隕石(いんせき)の証拠が日本で見つかった。大規模な環境変化が起き、多くの生物が死滅した可能性がある。恐竜を絶滅させた隕石衝突のはるか以前にも、大事件が生き物たちを襲っていた。(長内洋介)
◇直径8キロ
カナダ東部のケベック州に直径100キロに及ぶ巨大クレーターがある。中生代三畳紀後期の2億1500万年前、隕石の衝突で形成された「マニクアガンクレーター」だ。
熊本大の尾上哲治准教授(地質学)らは、この隕石から放出された物質を岐阜県と大分県の地層で発見。元素分析の結果、隕石は最大で直径約8キロ、重さ5千億トンの巨大サイズだったことを突き止め、9月に論文を発表した。
巨大隕石は衝突時のエネルギーで高温になり、蒸発して雲が発生。温度が下がると、水蒸気が冷えて雨粒ができるように、隕石の成分が凝固して球状の微粒子ができ、地球全体の大気中に拡散した。
やがて微粒子は降下して海底に堆積した。海底のプレート(岩板)は、地下深部から上昇するマントルの影響でゆっくりと移動し、日本列島に到着。海溝から列島の下に沈み込む際、表面の堆積物がはぎ取られて陸側に貼り付き、地表まで押し上げられた。
◇海洋生物が激減
地球に衝突した隕石は、恐竜を絶滅させた最大直径14キロの巨大隕石が有名だ。白亜紀末の6500万年前、メキシコのユカタン半島に落ちた。
今回の隕石はこれに迫る大きさで、秒速20キロで落下したと仮定すると、そのエネルギーは広島型原爆の30億倍に相当する。隕石から放出された硫黄によっ
て硫酸の雲ができて寒冷化したり、二酸化炭素の増加で温暖化するなどの急激な環境変化が地球規模で起きた可能性が高い。
地球の歴史を振り返ると、多くの種類の生物が一斉に死滅する大量絶滅が5回起きている。今回の隕石が落ちた時代はこれまで、大量絶滅はなかったとされてきた。
しかし、研究チームが岐阜県の地層に含まれる化石を調べたところ、この時代に放散虫という海洋プランクトンが大規模に絶滅したらしいことが分かった。
尾上氏は「この時代はあまり研究されておらずノーマークだったが、大量絶滅が起きていた可能性は十分にある」と話す。今後は欧州など世界各地で同じ時代の地層を調べ、さまざまな生物の絶滅の度合いや環境変動を詳しく解明する計画だ。
◇進化の加速装置
生物の大量絶滅の原因は隕石だけでなく、多くの学説がある。研究が盛んなのはペルム紀末の2億5200万年前に起きた史上最大の絶滅だ。三葉虫など海の無脊椎動物の約9割の種が死滅した。
当時の地球はマントルの大規模な上昇流で超大陸パンゲアが分裂を開始し、現在の5大陸に分かれ始めたころ。火山活動が異常に激化し、シベリアで溶岩が洪水のように流れ出たことが絶滅の原因として有力視されている。
一方、東大の磯崎行雄教授(生命史)は、地球磁場の変動が本質的な原因とみる。マントルの下降流で地球の核内の対流パターンが変化して磁場が弱まり、降り注ぐ宇宙放射線が増えて大気の分子が電気を帯び、雲が増えて寒冷化したとの仮説だ。
ただ、こうした環境変化が絶滅につながった直接の証拠はなく、大量絶滅の原因やメカニズムはまだ不明な点が多い。隕石による気候変動も、隕石の成分や落下場所によって影響は異なるという。
大量絶滅は生物にとって危機的な出来事だが、逆にチャンスでもある。運良く生き残った生物が爆発的な進化を遂げ、新たな繁栄を築く契機になるからだ。恐竜が今も地上を歩き回っていたら、人類は誕生しなかっただろう。
磯崎氏は「大量絶滅は進化の加速装置だ。人類を含む地球生命の将来を予測したり、われわれがなぜ存在しているのかを見つめ直す視点を与えてくれる」と話す。
直径10キロの隕石が地球に落ちる頻度は約1億年に1回。今の大陸が集合して新たな超大陸ができるのは約2億年後という。栄枯盛衰を繰り返してきた生物は、次の大事件をどう乗り越えるのだろうか。2013.12.2 08:30 産経ニュース
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