2015年6月20日土曜日

記事書き、資料整理まで 米、驚異の人工知能

記事書き、資料整理まで 米、驚異の人工知能 雇用喪失懸念も
 
*米国で人工知能(AI)が活躍の場を広げている。記者に代わってスポーツや経済関連の記事を書いたり、法律事務所で膨大な訴訟資料の整理を任されたりしている。人の手に取って代わる機械化の波は工場などの生産現場から、より知識や技術が求められる専門職に及び始めた。【ダーラム(米南部ノースカロライナ州)で清水憲司】

 「第1四半期は100万ドルの赤字を計上。同業他社との合併関連費用が重荷になった」。6月2日、米有力メディアAP通信が報じた米医療機器会社の決算記事だ。会社の近況や事前の市場予想を交えた達者な英文だが、筆者は米ベンチャー企業の「オートメーテッド・インサイツ」が開発したAIだ。

 ダーラムの本社を訪ねると、約40人の社員がリラックスした雰囲気の中、AIソフト開発に当たっていた。昨年1年間で同社のAIが自動作成した記事やリポートは10億本。「スポーツでも企業決算でも、どんな文体の記事でも書けます。まだニーズはないけど、シェークスピアのような文体も可能でしょう」。広報担当者ジェームズ・コテキさん(29)は自信を見せる。

 仕組みはこうだ。膨大な英文データをAIに取り込み、通信社なら新聞記事の、金融機関なら顧客向けのリポートで使われる文章の構成や言葉遣いを覚えさせる。あとは、いつ、どんな内容の文章を書くかを設定すれば、AIがネット上のデータベースから必要な要素を拾って文章化する。AP通信はこれまで人手を割けなかった中小企業の決算が配信可能になったほか、同社の記者はより独自性の高い特集記事などに注力できるようになった。

 米南部テキサス州を拠点に同様のサービスを提供する「イージオップ」は日本進出を計画中だ。現在は英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語に対応するが、リンジー・プラウズ部長は「どの言語でも30〜50日あればAIに覚えさせられる」と話す。

 ワシントンのシェパード・モレン法律事務所は2年前から、顧客企業が訴訟用に持ち込む膨大な電子データの整理に活用。資料に目を通すのに何カ月もかかることがあったが、「どんな文書を探すか」を指示すれば、関係するものだけを見つけだしてくれる。単純な法律相談ならAIでも対応できるようになり、同事務所のクリストファー・ラブランド弁護士は「将来は弁護士の数が減るかもしれない」と明かす。

 将来は膨大な医療データを蓄積して医師の代わりに診断することや、車の運転や列車の運行も可能になるなど活用が広がる見通しだ。一方で、米国では「AIは雇用を失わせる」との懸念も語られ始めている。

 数十年のうちにAIが人間の能力を超えるとの予想もある。英天文学者のホーキング博士は「人工知能に取って代わられ、それは人類の終わりを意味するかもしれない」と警告する。先端技術に詳しいアナリストのスコット・ストロウン氏は「核兵器は特定の物質を管理することで規制できるが、AIはそうはいかない。AIの制御はSFではなく、リアルな課題になろうとしている」と指摘する。


 日本でも日本郵政傘下のかんぽ生命保険やみずほ銀行、三井住友銀行が、米IBMが開発したAI搭載のコンピューター「ワトソン」を導入。保険金の支払い業務やコールセンターでの顧客対応に活用している。毎日新聞 20150620日 東京夕刊

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