再生医療 危うい倫理 動物で人の臓器育成
人間並みの記憶力を持つマウスや人間の皮膚を持つサルなどがあらわれるかも-。どんな細胞にも変わりうるiPS細胞をもとに、動物の体内で人間の
臓器を作り出す研究が進んでいる。山中伸弥京都大教授のノーベル賞受賞でiPS細胞の応用に期待が集まる一方、人間と動物の境界があいまいになるという倫
理的な課題が浮上した。(榊原智康)
マウスとラットが合体した動物はすでに生まれている。糖尿病の根本的な治療をめざす東京大医科学研
究所の中内啓光教授らは、マウスの体内でラットの膵臓(すいぞう)を作った。膵臓ができないよう遺伝子操作したマウスの受精卵に、ラットのiPS細胞を入
れると、生まれたマウスの体内にはラットの膵臓ができた。
さらに、膵臓ができないようにしたブタの胎児に、人間のiPS細胞を培養した細胞を移植する研究に着手した。この細胞は膵臓の細胞になるよう方向づけられている。うまくいくとブタで人間の膵臓を作ることができる。
肝臓病の治療をめざす横浜市立大の谷口英樹教授らは「マウスに人間の肝臓を作った」と、今年六月に発表した。人間のiPS細胞を、肝細胞の一歩手前の細胞
に変化させ、血管を作る細胞などとともに培養。これをマウスの頭部に移植した。すると人間の血管網ができ、大きさは五ミリだが、特有のタンパク質を作るな
ど肝臓の機能を持つ臓器ができたことを確認した。
国の指針では、動物の受精卵に人間の細胞を移植し、子宮に戻して個体を作り出すことを禁
じている。人間と動物の中間の生物ができてしまう恐れがあるからだ。ただ人間の細胞や組織を、動物へ移植することは認められている。東大や横浜市大の研究
は、このルールの中で進められている。
なぜ、動物が必要なのか。横浜市大の武部貴則助手(再生医療)は「試験管の中で丸ごとの臓器を作るのは難しい」と説明する。細胞の培養は体外でもできるが、臓器の形成には、同じ生体である動物を活用するのが早道なのだ。
ただ、技術が進めば、脳細胞の動物への移植などにも応用でき、やっていいことといけないことを、どのように線引きするかという問題に直面する。山中教授も どこまで進めてよいか国民的な議論が必要だと訴える。大阪大の加藤和人教授(医学倫理)は「一律に動物の利用を制限することには賛成できない。個別の判断 が必要になる。患者、研究者、倫理の専門家、それに市民による熟議の場を設けるべきだ」と話している。2012年10月11日 07時02分(東京新聞)
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