2012年6月25日月曜日

氷河崩壊で南極に異変


氷河崩壊で南極に異変
 南極の氷河の崩壊に端を発した異変が海中で起きているという。国立極地研究所の田村岳史助教らの分析によると、異変は地球を取り巻く深海流の巨大 ベルトコンベヤーの故障につながり得るものなのだ。極地研など日本の研究機関とオーストラリアの南極気候生態学共同研究センターの調査で判明し、科学誌 「ネイチャー・コミュニケーションズ」に発表された。海洋の駆動装置が止まれば、陸上の気候システムへの影響も避けられない。南極の異変の継続監視が不可 欠とする内容だ。
                   
 2004年の米映画「デイ・アフター・トゥモロー」が思いだされる。地球温暖化で南極の棚氷がとけ始め、急変した海流の影響で気候システムが暴走し、思いがけない超寒波が地球を包むというSFだ。大津波に襲われたニューヨークが凍結していく場面は衝撃的だった。
 このSFの科学的論拠は「熱塩循環」の停止だった。熱塩循環は深海のベルトコンベヤーに例えられる海水の運搬現象だ。
  大西洋を北上したメキシコ湾流は高緯度の低温で冷やされて重くなり、グリーンランド付近で海中深く沈み込んで南に戻る。この深層水の流れは、南極でさらに 重く冷たい海水と合流して太平洋やインド洋などの深海底を這(は)う底層水となった後、表層に戻り、地球を2千~3千年がかりで一巡する。
 海水の水温と塩分濃度が、地球を循環する底層水の駆動力になっているので、海洋学では熱塩循環の名前で呼ばれる。

 田村さんによると、南極沿岸で海水が沈み込む場所は4カ所ほどある。その1カ所のオーストラリア・タスマニア島に対面する沿岸域で、2010年2月に異変が起きた。
 ここには幅40キロ、長さ80キロもあろうかという巨大な「メルツ氷河」が舌のように南極海に突き出していたのだが、漂流してきた大きな氷山の衝突で折損し、沖に流失してしまった。
 この氷河の付け根で盛んに海水が凍っていたのだが、氷河が無くなった後は、海氷の生産量が20%も減ったことが、人工衛星の観測で確認されている。

 海氷ができるとき、氷から塩分が排出されて周囲の海水の濃度は増して地球で最も重い水になる。こうして南極底層水が形成され、太平洋やインド洋などに向けて出発する。
 北極近くの海水の沈み込み部の働きを、熱塩循環のベルトコンベヤーを動かす通常のエンジンとみなすなら、南極沿岸の沈み込み部は、強力なターボエンジンに相当する。その4基中の1基の冷却不良によるパワー不足が心配されているのが、現在の状況だ。
 田村さんによると、メルツ氷河が元の大きさに回復するには50年以上が必要だ。その間、海洋や大気にどのような影響があらわれるかは、現象が複雑すぎてわからない。
 確かなのは熱塩循環が止まれば、二酸化炭素の海への主要な吸収も停止するということだ。深海魚などへの酸素供給も途絶する。「デイ・アフター・トゥモロー」に劣らぬ悪夢である。2012.6.25 07:32 産経ニュース 長辻象平:科学ジャーナリスト、専攻は魚類生態学。

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