2014年1月8日水曜日

人工光合成



光当たる人工光合成 低炭素社会実現へ激しい研究競争
 太陽光と水、空気から効率良くエネルギーを作る――。植物の光合成のメカニズムを生かして、低炭素社会を実現させる研究が、大学や企業で熱を帯びている。日本は、「お家芸」であるモノ作りの技術を生かし、世界をリードする存在だ。強みを生かそうと、国も後押ししている。(今直也)
 学校の理科の授業でも習う植物の光合成は、われわれが最もなじみのある自然現象の一つだ。葉で太陽光を集め、水と空気中の二酸化炭素をとりこみ、酸素と炭水化物に変える。

 光合成の反応の中に、水を酸素と水素に分解するプロセスがあり、これは5段階で進行する。原子レベルの詳しいしくみは未解明だったが、最近、最初の段階を進める酵素の構造を、日本の研究グループが突き止めた。この酵素は、光合成の主役である葉緑体に含まれるものだ。
 岡山大の沈建仁(しんけんじん)教授は、和歌山県の温泉で高温で繁殖するラン藻を採取し、その細胞から酵素を抽出して結晶化した。これを大阪市立大の神谷信夫教授が、兵庫県にある大型放射光施設「スプリング8」で解析。たんぱく質の中のマンガンカルシウムが含まれる「マンガンクラスター」という構造で、形状から「ゆがんだ椅子」と名付けた。

 2011年に英科学誌ネイチャーに発表したところ、光合成を人工的に再現する一歩と期待され、同年、米サイエンス誌が選ぶ「10大ブレークスルー(躍進)」の一つに選ばれた。沈さんは「構造の一端がわかったことで、どんな反応が起きているか推定できるようになる。水が分解される過程をはっきり見つけたい」と話す。
 酵素などの構造解析は欧米も力を入れており、世界で激しい競争が続いている。大阪市立大は昨春、人工光合成研究センターを設立した。植物やラン藻の特徴を応用し、太陽光を効率的に取り込むアンテナの開発や、触媒で効率的に水を分解させるシステムの実証試験に向けて、産学連携を進めている。
 光合成はエネルギーを作る効率が非常に高く、汚染物質も出ないクリーンな反応だ。センター長に就任した神谷さんは「天然の構造を利用した研究は先が長いかもしれないが、総合力で実用化につなげたい」と話す。

触媒開発 日本がリード
 人工光合成が目指すのは、光を使って効率良くエネルギーを作るシステムを作ること。鍵を握るのは、反応を進める触媒の開発だ。ここでも日本の技術が世界をリードしている。
 光を利用して反応を起こす研究では、「本多藤嶋効果」が有名だ。水に浸した酸化チタンに光を当てると、水が水素と酸素に分解する反応で、故本多健一・東京大名誉教授と東京理科大の藤嶋昭学長が1967年に発見した。

 できた水素はクリーンな燃料として活用できる。だが、この反応は、太陽光に含まれる紫外線でしか起きないのが難点。紫外線は太陽光のエネルギーの数%程度に過ぎない。
 東京大の堂免一成教授は、この研究成果を一歩先に進め、太陽光のエネルギーの半分を占める可視光を利用し、高い効率で水を酸素と水素に分解する触媒の開発を進めている。酸窒化物や酸硫化物などが優れた触媒の候補となることを突き止めた。
 堂免さんは「5~10年のうちに実用レベルに達するだろう。21世紀中に、二酸化炭素の排出を心配しなくていいエネルギー供給ができればいい」と話す。

実用化への突破口探る
 豊田中央研究所(愛知県長久手市)は11年、太陽光を利用して二酸化炭素と水から有機物の燃料(ギ酸)を合成することに成功した。半導体と金属錯体を組み合わせた新たな触媒を活用した。太陽光のエネルギーを有機物に換えるエネルギーの変換効率は0・14%で、植物の約7割に達する。
 パナソニックも、太陽光を使ってギ酸を作る技術開発を進め、12年に世界最高水準の0・2%を達成した。ギ酸を、燃料としてより利用しやすいアルコールに変換する技術を、15年度中に確立するべく研究を進めている。
 人工光合成にはほかにも、さまざまな手法がある。科学技術振興機構の研究プロジェクト「さきがけ『光エネルギーと物質変換』領域」の研究総括を務める首都大学東京の井上晴夫・人工光合成研究センター長は、分野をまたいだ研究の発表会を数多く開いている。「どれが実用化に一番近いかはまだわからないが、20年ごろまでにいろいろなブレークスルーが出る可能性がある」と期待する。2014160930分 朝日

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