2015年10月6日火曜日

私学初の快挙

ノーベル賞:医学生理学賞に大村さん 私学初の快挙 研究費、企業から工面
*文部科学省からの科学研究費補助金の内訳
 大村智・北里大特別栄誉教授の業績は、日本の自然科学3賞の受賞者では初となる私立大での研究成果だ。国の代表的な研究費である文部科学省の科学研究費補助金(科研費)の約7割は旧帝大を中心とする国公立大の研究者に配分され、私立大の研究者への支援は潤沢とは言えない。大村氏は企業と共同研究を積極的に進めることで大きな成果を生み出した。【藤野基文、清水健二、須田桃子】

 過去の受賞者の中には、名城大の赤崎勇終身教授(2014年物理学賞)ら私立大の受賞者もいるが、受賞対象はかつて所属した国立大などでの実績。大村氏のように、私立大当時の研究成果で受賞するのは初めてとなる。
 科研費は研究者が個人として応募し、提案した研究内容による選考を経て採択される競争的研究費。文科省によると、15年度に新規採択された科研費の主要種目636億円のうち64・2%に当たる408億円が国立大所属、34億円(5・3%)が公立大所属の研究者に配分され、私立大の研究者は17・8%の113億円にとどまる。国立優位の構図は毎年変わらず、継続分も合わせた総額では、上位20機関のうち18機関を国立大と国立研究開発法人が占める。

 研究費問題に詳しい竹内淳・早稲田大教授(半導体物理学)は「日本の公的研究費の配分は実績偏重のため、研究費の潤沢な国公立大の研究者が業績を上げて次の研究費を得る一方で、研究費の乏しい私立大の研究者はますます審査に通りにくくなるという悪循環に陥っている。理工系の学生は私立の方が多く、配分の偏りは人材育成という観点でも問題だ」と指摘する。

 大村氏が、ノーベル賞受賞のきっかけとなった抗生物質「エバーメクチン」の発見を報告したのは、北里大教授だった1979年。エバーメクチンを作り出す放線菌のゲノム(全遺伝情報)解析には約10億円かかったが、国からの補助は約4億円で、残りは企業と組んで工面したという。
 当時は大学の研究者と企業との共同研究はそれほど盛んではなかったが、大村氏は毎日新聞の取材に「企業と組むからこそ世の中で必要とされていることが分かり、世界の情報が入る」と強調する。

 竹内教授は「企業との共同研究で大きな成果を出されたのは素晴らしいことだが、企業との結びつきが少ない研究分野も多い。私立大の研究者への配分が増え、埋もれた優秀な研究者にもチャンスが増えることを願っている」と話す。

 ◇北里大学

 日本の「細菌学の父」として知られる北里柴三郎博士(1853〜1931年)が1914(大正3)年に創設した北里研究所が、創立50周年記念事業として62年に設置した私立大。東京都港区白金に本部を置き、薬学部や獣医学部などの学部と大学院、付属病院などがある。学生数は大学院を含め約8500人。「バナナの皮が滑りやすい」ことを実証した馬渕清資・医療衛生学部教授は2014年、ノーベル賞のパロディー版「イグ・ノーベル」物理学賞を受賞した。毎日新聞 20151006日 東京夕刊

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