2015年7月12日日曜日

静かに進む「6度目の大量絶滅」

静かに進む「6度目の大量絶滅」 人間が招く危機
 地球上に生命が誕生してから約38億年。これまでに5度の大量絶滅が起きたと考えられている。そしていま、6度目の大量絶滅が静かに進行しているというショッキングな報告が相次ぐ。しかもそのほとんどは人間の活動に基づく環境破壊が原因であり、絶滅のペースを遅らすのは容易ではない。

20世紀は人間登場前の100倍のペースで生物種の絶滅が進む
 米ジャーナリストのエリザベス・コルバート氏は著作「6度目の大絶滅」(鍛原多惠子訳、NHK出版)で、絶滅の危機に瀕(ひん)する中米パナマの黄金色のカエルやインドネシア・スマトラ島のサイ、北米のコウモリなどの実態を現地から報告した。すでに絶滅した動物も紹介し、地球の広範な地域で生態系が崩れかかっていることを点描。同書は一般ノンフィクション部門で2015年のピュリツァー賞を受賞した。

 米スタンフォード大学などの研究グループは6月、20世紀は人間活動がなかった頃に比べて約100倍のペースで生物種の消滅が進んだという計算結果を明らかにした。論文の共著者のポール・エーリック同大教授は「地球はすでに6度目の大量絶滅期に突入している」と警鐘を鳴らす。米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に掲載された論文では、脅威にさらされている生物を保護するため、環境負荷を減らすことを呼びかけている。

*ネオニコチノイド系農薬を与えた結果、ミツバチがほとんどいなくなった巣箱(ハーバード大のアレックス・ルー准教授提供)

 身近な生き物ではミツバチの生態が脅かされている。海外では10年ほど前からミツバチの大量死や大量失踪が社会問題になった。日本国内でも報告例がある。働きバチが突如姿を消し、群れを維持できなくなったためで、蜂群崩壊症候群(CCD)という名前がついた。北半球全体で4分の1のミツバチが消えたとみられ、養蜂業や花粉交配にミツバチを使う農業に深刻な影響を与えている。
 CCDの原因には諸説があるが、最も疑われているのは、ネオニコチノイド系と呼ばれる農薬(殺虫剤)の使用だ。害虫だけではなくミツバチの神経機能に作用し、方向感覚を狂わせることが分かった。1312月から、欧州連合(EU)域内ではネオニコチノイド系3種の使用が原則禁止になり、他の地域でも禁止を求める声が強まっている。

 環境省はメダカなどの絶滅危惧種を記載したレッドデータブックを作成し、社会に対して広く注意を喚起している。06年と07年に公表した第3次リストには3155種を記載したが、12年と13年の最新リストでは3597種となり、6年の間に442種増えた。野生動物の生息域を保全する試みは各地で進んでいるものの、同省希少種保全推進室では「絶滅危惧種が増えているのは事実であり、厳しい状況であるのは間違いない」と話している。

■2億5200万年前は生物の95%が消滅 恐竜は小惑星の衝突が原因
 過去の5度の大量絶滅のうち、最も大規模だったのは2億5200万年前のペルム紀末に起きた3度目の大絶滅だ。実に生物種の95%が消滅したという。

過去5度の大量絶滅
名称   時期(億年前)主な絶滅種  絶滅の割合(%) 主な原因
オルドビス紀末 4.54.4 腕足動物、二枚貝  85  海面の低下、宇宙線
デボン紀後期   3.59   サンゴ   82   激しい気候変化
ペルム紀末    2.52   三葉虫、昆虫   95   火山噴火
三畳紀末     2    アンモナイト、魚竜    76  低酸素化
白亜紀末  0.65  恐竜   70   小惑星の衝突

このときは有毒な火山ガスが何度も大量に噴出し、陸上生物の呼吸器や神経系を侵した。海中の酸素濃度が極端に少なくなり、水生生物が死に絶えた。地球磁場が弱くなり、有害な宇宙線を食い止められなかったことも原因の1つという。
 最も新しく、よく知られている6500万年前の白亜紀末に起きた5度目の大量絶滅は、宇宙から飛来した巨大な小惑星が北米に衝突し、わが世の春を謳歌していた恐竜を滅ぼした。直接の衝撃に加えて大火事に見舞われたのは局地的な事象だったが、上空に吹き上げられた大量のエアロゾルが太陽光を遮断。全球の気温が低下したうえ光合成が何年も止まったため、食糧不足に陥った生物種の70%が消滅した。

 こうした大量絶滅はどのくらいの時間をかけて起きたのだろうか。ペルム紀末の大絶滅を研究する東京大学の磯崎行雄教授は「これまで数十万年といわれていたが、現地調査で数万年以内というところまで絞れてきた」と言う。その一方で、白亜紀末の大絶滅は数年以内のごく短期間に進行したとみられる。同じ大量絶滅といっても時間的は大きな差があることが分かる。

■人間の活動で生息環境が変化 種の消滅はこれからも拡大
 では現在、6度目の大量絶滅が始まっているとしたら、いつごろまでにどれぐらいの生物種が姿を消すのだろうか。北米のバファローのように大型動物ならば絶滅を確認できるが、小さな生物では確認が容易ではない。ペルム紀末のように数万年もかかるとされる緩慢な現象を詳細に追跡するのは非現実的だ。具体的予測を立てることは誰にもできないといえよう。


 ただ磯崎教授は「現在6度目が起きているとすれば、過去5度とはカテゴリーが全然違う」とみる。自然現象ではなく、人間の活動のために生物の生息環境の変化が加速しているのは明らかだからだ。地球上の人口は70億人を超え、資源・エネルギーの探査や消費などで今後も環境負荷が増え続けることは間違いない。近い将来のどこかの時点で、人類が環境負荷を減らす決断をしない限り、生物種の消滅はこれからも拡大していくだろう。(科学技術部シニア・エディター 池辺豊) 2015/7/12 6:30 日経

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