2015年6月2日火曜日

生命の種は宇宙を浮遊?

生命の種は宇宙を浮遊?「たんぽぽ計画」始動 空間漂う微生物の捕集目指す
 
タンポポの種が綿毛で運ばれるように、生命は宇宙を浮遊しているのではないか。この仮説を確かめる日本の「たんぽぽ計画」が5月下旬に動き出した。宇宙に漂う微生物や有機物を国際宇宙ステーション(ISS)で探したり、生物が宇宙空間で生きられるかを調べたりする。生命の起源の解明に迫れるか注目されそうだ。(黒田悠希)

「天体間を移動」
 生命は約46億年前の地球誕生から数億年後に出現したとされるが、どのように生まれたのかは諸説ある。広く支持されているのは、材料となる有機物が大気や海水中で無機物から合成され、原始の海に蓄積したとする「化学進化説」だ。しかし、生命ができる確率はごく低いとの反論もあり、決着していない。

 近年、再び注目されているのは、生命の「種」が宇宙を漂い、天体の間を移動するという「パンスペルミア仮説」だ。約100年前、スウェーデンの科学者スバンテ・アレニウスが提唱した。
 隕石(いんせき)にはアミノ酸が含まれており、地球の生命が他の太陽系天体から届いたとの考え方も、あながち荒唐無稽ではないことが分かってきた。だが、この仮説も現状では臆測の域を出ない。宇宙空間に微生物や有機物が本当に漂っているのか。その証拠を探そうというのが、たんぽぽ計画だ。研究グループの山岸明彦東京薬科大教授(極限環境生物学)は「生物学最大の難問への挑戦だ」と意気込む。

新素材でキャッチ
 計画には大学や宇宙航空研究開発機構(JAXA)など国内の26機関が参加。宇宙のちりを集め、微生物や有機物が含まれるかを調べる。約10年前から構想されていたが、今年4月に装置がようやく打ち上げられた。5月26日にはISSの日本実験棟「きぼう」の船外施設に装置が設置され、実験が始まった。
 宇宙のちりは地球に年間数万トンも降り注いでいるが、地球の物質が混入してしまうため、地上で集めても解析が難しい。ちりの捕集装置は1年ごとに交換して計3回、地球に回収し、成分を分析する。

 宇宙のちりは、高度約400キロを周回するISSに秒速数キロから十数キロの高速で衝突する。含まれる微生物などを壊さないで捕らえるため千葉大が開発したのが、「エアロゲル」と呼ばれる板状の特殊なシリカゲルだ。
 この材料は1立方メートル当たり0.01グラムの超低密度で、体積の9割以上が空気。多数の小さな穴がスポンジ状に空いた構造で、衝突してきたちりをやさしく捕らえる仕組みだ。ロケット打ち上げ時の衝撃で壊れないような工夫も加えた。千葉大の田端誠特任研究員は「実験がやっと実現することに期待感でいっぱい」と胸を躍らせる。
 天体間を移動する可能性がある生命は、微生物しかいない。宇宙は真空で乾燥しており、強烈な放射線を浴びるほか、温度も極低温から超高温までと極端で、高等動物や植物はとても生きられない過酷な環境だからだ。

地球から脱出か
 微生物の中には、紫外線などに強い耐性を持つものがいる。地球では航空機が飛ぶ成層圏以上の高度48~77キロで、こうした微生物が見つかっているが、火山の大噴火や小天体の衝突によってはじき飛ばされ、同100キロ以上の宇宙に脱出している可能性もある。

 捕集実験では、地球から来た微生物を捕らえる可能性の方が高いが、培養が難しいため生存しているかは分からない。そこで地球の微生物を宇宙に直接さらす暴露実験も並行して実施し、生きたまま宇宙空間を移動できるか確かめる。放射線や紫外線などに強く、成層圏にもいるデイノコッカスという細菌の仲間や、乾燥に強い細菌のシアノバクテリア、酵母菌を入れた器具をISSに運んだ。
 暴露実験では寄り集まって塊になった微生物が、どこまで生存できるかを調べる。塊の内部は紫外線などから守られ生き延びやすい可能性があるからだ。有機物もさらして、その変化を検証する。


 山岸教授は「地球の微生物が宇宙でも生存できれば、天体間を移動してもおかしくない。地球の寿命はあと約50億年で、私たちの将来はそう長くない。生命の起源に迫ることは、その将来を知ることにもつながる」と話している。2015.6.1 11:23 産経

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