隕石で探る太陽系形成史 46億年前を伝える「化石」
「球粒」で宇宙の謎解明へ
ロシアに先月、大きな被害をもたらした隕石(いんせき)。地球への落下は人類にとって脅威だが、その成分には太陽系の成り立ちを探る貴重な手掛かりが含まれている。約46億年前の太陽系誕生時の化石ともいえる隕石の素顔をのぞいてみた。(伊藤壽一郎)
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「地球で発見された隕石は、ほとんどが火星と木星の間からやってきた小惑星のかけらです」。国立極地研究所の小島秀康教授(隕石学)は、こう説明する。
小惑星のかけら
火星と木星の間には、惑星になれなかった小さな天体が数百万個集まっている小惑星帯がある。ここで小惑星同士が衝突するなどしてできたかけらが軌道を外れ、地球に飛んでくる。大気圏突入時の高温で燃え尽きれば流星に、燃え残って地表に到達すれば隕石になる。
小島教授によると、地球に落下する隕石は1年間でバレーボール大の重さ10キロ級が約800個、ソフトボール大の約1キロ級が約4千個に及ぶ。これまでに
発見されたのは世界で約6万個で、日本では50個。小惑星帯以外の故郷はまれで、月が約100個、火星が約60個にとどまる。太陽系外からきたものはな
い。
最も多いのは球粒(きゅうりゅう)隕石(コンドライト)と呼ばれ、全体の86%を占める。直径数ミリの球状の粒子(球粒)が集まった構造で、かんらん石などのケイ酸塩鉱物や鉄からなる。ロシアの隕石もこのタイプだった。
ほかに地球の岩石と似た石質の無球粒隕石(エイコンドライト)が8%、鉄が主成分の鉄隕石が5%。かんらん石と鉄が美しく混ざり合う石鉄(せきてつ)隕石は1%とわずかだ。
謎の球状粒子
太陽系は約46億年前、宇宙のちりとガスからなる星間物質から形成された。国立科学博物館の米田成一研究主幹は「星間物質の濃度が高い部分で太陽が生まれ、残ったちりから隕石や惑星ができた」と解説する。
ちりの一部は溶けて液体になり、無重力空間で表面張力が働き球状の粒子に。溶けなかったちりとともに固まり、多種の球粒が偏らずに混じり合う地球では考えられない不思議な構造の岩石ができた。これが球粒隕石の起源だ。
溶けた原因は、太陽の活発な活動による衝撃波や雷と推測されるが未解明。米田氏は「隕石学上、最大の謎の一つだ」と話す。
球粒岩石は、太陽の周囲を回るうちにくっつき合って巨大化し、惑星に成長していった。惑星になれなかったものは、隕石の故郷である小惑星帯を形成した。
小惑星は大きくなると内部が高温高圧になって溶解し、中心に重い鉄の核ができ、周りを軽い岩石の層が囲む。小惑星が壊れると、場所によって異なる成分の破片が飛び散り、核は鉄隕石、岩石層は無球粒隕石、両者の境界付近は石鉄隕石の起源となった。
鉄隕石は八面体の結晶構造が美しく、日本では昔から珍重されてきた。1890年に富山県で発見された白萩隕石からは、流星刀という日本刀5振りが作られ、長刀1振りが皇太子(後の大正天皇)に献上されている。
太陽誕生前の痕跡か
学術的に最も重要なのは球粒隕石だ。地球の岩石には見られない球粒は「太陽系誕生時の様子を克明に記録した化石といえる」(米田氏)からだ。
球粒の組成は形成当時の宇宙がどんな元素で構成され、何が起きていたかを物語る。さまざまな球粒の組成を調べ、放射性同位体による年代測定で時系列を確認すれば、太陽系の形成史を詳細に突き止められる。
ここ10年ほどで分析や年代決定の精度が向上。その結果、球粒は45億6500万年前ごろに形成が始まり、45億5千万年前ごろに現在の惑星系がほぼ完成したことなどが分かってきたという。
最近の研究で注目されているのは、球粒隕石からごくわずかな量が見つかった「プレソーラー粒子」だ。ケイ酸塩や酸化物、炭化物などが成分だが、奇妙なことに太陽系の平均的な同位体組成とは異なり、太陽系誕生以前に寿命が尽き崩壊した恒星に由来する物質ではないかとみられている。米田氏は「銀河系の物質循環 や宇宙の成り立ちを探れるかもしれない」と期待を寄せる。2013.3.25 08:23 産経ニュース