2008年6月27日金曜日

11年前に書いたものです。

しばらくは、自己紹介を兼ねて過去にどちらかと言えば内輪用に書いたものをご披露します。個人情報に配慮して一部変更する場合もありますが、基本的には可及的に当時のままを再現したいと思います。若気の至り等ご寛容のほどお願いします。叱咤激励頂ければ幸いです。早速ですがこれは11年前に書いたものです。


自戒を込めて

 研究を進める際大事なものは何か?と問われて、敢えて「モウチベーション」を挙げる。未知への好奇心を満たす知的行動の源泉である。現実の研究活動は、厳しい国際競争のなか、呻吟しながらの結果も、時として後塵を拝し苦汁をなめるやも知れぬ。研究に運、不運は確かにあるが、自ら課題を設定し、自らの知恵と工夫で解を求め、原著論文として自己表現する嬉びは研究者として至福である。論文には実験者・著者の生き様や品格までが色濃く投影される。グローバルに高い評価を得てモウチベーションはさらに高まる。秀逸な成果はthe big prizeからroyaltyまでの両極端で自然開花する。

 真に独創的な研究は、少数の限られた人物の発想によって拓かれる。だから組織体として、優れた発想を持つ人材を重視し、誰もやっていない新しいことにチャレンジすることが大切だ、という揺るぎなき価値観の共有が重要である。アインシュタインの特殊相対性理論の論文は引用文献ゼロと言う。万人が認める独創性の極致である。

 講演やスピーチを、我が同胞は謙遜の言葉で始め、アメリカ人はジョークで始める。共に聴衆を心理的に武装解除し、共感を得るための方策である。クローン羊ドリー嬢の登場は、西欧的合理主義・科学価値観を、東洋的思想哲学・輪廻転生の世界へ誘った。欧米流の価値観だけで科学を論じることを潔しとしない所以でもある。

 わが国の伝統と独自性に思いを馳せ、研究活動にある種の大らかさを求めたとき、例えば、多様なテーマに一定のチャンスが保証される必要がある。ただし評価は、情報の公開と透明性に裏打ちされ、グローバルスタンダードに基づき厳正になされるべきだ。 全身全霊を注ぎ込むことのできるテーマに巡り会えることは、研究者として最大の幸福せである。そこに不純な動機は馴染まない。

 ひと度テーマが定まれば全精力を注ぐのみ。大樹の下で雨露凌ぐ考えは捨て去るべきだ。昨今の物理的研究環境は押し並べて良い。外野席の野次に一喜一憂することなかれ。lofty ambitionをもって正攻法で本丸を攻めよう。幾たびか返り討ちに会うやも知れぬ。むしろ励みとなそう。ウィンパーのマッターホルン初登攀が教えた如く、一見非常識なルートこそが成功へ導くこともある。

 艱難辛苦を楽しみと化し、自らの力量を信じて実践すれば良い。あとは目に見える形で示せばいい。これはmustである。舞台はグローバル、研究者としての存在と評価は、主体の伴う原著論文の存在によって可能化する。もとより研究者のQOL(quality of life)は研究の成果で大きく左右される。

 どこか倫理・価値観のずれに戸惑う平成の世にあって、愚直なまでの美意識へのこだわりは、改めて内村鑑三や新渡戸稲造、ラッセル卿への原点回帰を促すこの頃ではある。
1997.6



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