動物たちの奇妙な嗅覚
タコやチョウには人間のような鼻がない。別の方法で、ときには奇妙な方法で、周囲の世界を感じ取っている。ノースカロライナ大学の博士課程を修了した生物学の研究者リンジー・ウォルドロップ(Lindsay Waldrop)氏は、「ほとんどの動物にとって、嗅覚は極めて重要だ」と話す。
◆においをかぐ歯ブラシ
「われわれは鼻でにおいをかぐが、カニも同じことをしている」とウォルドロップ氏は説明する。「ただし、カニの場合、高密度の歯ブラシのような毛を使っている」。
歯ブラシのような毛が生えているのは、口の近くにある触覚だ。においをかぐときは水中でこの触覚を動かす。
触角を素早く振り下ろすと密集した毛が開き、水とにおい物質の分子が入り込む。触覚をゆっくり振り上げると毛が閉じ、化学感覚を受容する細胞ににおいが閉じ込められる。こうして周囲にあるもののにおいをかいでいる。
イギリス王立協会が発行する「Interface」誌で発表された論文によれば、カニはこの感覚器を使って見通しの悪い場所で餌を探したり、交尾の相手を見つけたり、捕食者から身を守ったりしているという。
◆ヘビは舌でにおいをかぐ
ヘビの場合、鼻はあるものの、はるかに多くの感覚情報を舌で受け取っている。
ヘビが舌を出して動かすのは、カニと同様、におい物質の分子を捕らえるためだ。舌を引っ込めると、フォーク状の先端が口蓋に開いた2つの穴にぴったり納まり、鋤鼻器(じょびき)またはヤコブソン器官と呼ばれる感覚器に分子が運ばれる。
フォーク状の舌はちょっとした空間情報も与えてくれる。「このおいしそうなリスは左側にいる」といった情報だ。
◆足で味見
ハエの場合は唇弁(昆虫の唇にあたる)と附節(足に相当)に化学感覚を受容する毛が生えている。サンドイッチに止まったハエは単にひと休みしているわけではなく、昼食の試食をしているのだ。
チョウも足で試食するが、理由は別にある。チョウのメスは幼虫が何か食べられるよう、植物の下側に卵を産み付ける。試食の目的は毒のある植物を避けることだ。
四肢で味見をするのは昆虫だけではない。タコの8本の脚は1800もの吸盤で覆われており、その一つ一つに化学物質の受容体が内蔵されている。
◆全身で味わう
最も奇妙な方法で、しかも徹底的に周囲の世界を味わっているのはおそらくナマズの仲間イエロー・ブルヘッド(学名Ictalurus natalis)だろう。長いぬるぬるした体全体が1つの舌と言っても過言ではない。
口の周りに生えた“ひげ”を中心に、頭から尾まで17万5000以上の味蕾(みらい)が分布している。通常、人間の舌にある味蕾は2000~8000程度だ。 Jason Bittel,
National Geographic News, November 26, 2014