衝突による月形成の直接的証拠発見
新しい方法で月の岩石を分析した結果、太古の衝突により月が形成されたことを示す直接的な証拠が発見された。これに伴い、長年議論されてきた仮説の信憑性が高まっている。
月が形成されるもととなった、地球と小さめの惑星の衝突の様子(イメージ図)
月の岩石はNASAのアポロ計画で収集されたものだ。今回、最新の走査型電子顕微鏡を使うことで、45億年ほど前に火星くらいの大きさの惑星が原始地球に衝突し、飛び散った破片が集まって月になったとする説を裏付ける化学的痕跡を、岩石中に見つけることが初めて可能になった。
“テイア”と呼ばれる古代の惑星が地球に衝突。その際、無数の破片が宇宙空間へ飛び散り、それらが集まって月になった。このジャイアント・インパクト説は、1969年7月20日のアポロ11号の月面着陸を機に提唱され始めたもので、地球がこれほど巨大な月を持つ理由を説明付ける内容となっている。
ドイツ、ニーダーザクセン州にあるゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲンのダニエル・ヘルヴァルツ(Daniel Herwartz)氏の率いるチームは、「Science」誌6月6日号でテイアに関する新たな分析結果を報告している。
報告書には「多くの数値モデルから予測されるとおり、月の大部分がテイアの破片が集まってできたものだとすれば、地球と月の組成は異なるはずだ」とある。
これまでの分析では、月と地球の岩石の化学組成の違いを特定するまでには至っていなかった。しかしヘルヴァルツ氏らのチームは、月の岩石中により重い酸素原子が約12ppm多く含まれるという、テイアの特徴を示す微細ではあるが極めて重要な違いを発見した。
◆浮遊惑星
原始太陽系は射撃場のようなものだったとヘルヴァルツ氏は言う。原始太陽の周りにダストからなる原始太陽系円盤が形成され、ここで生まれた微惑星が太陽の周りを公転。微惑星同士が衝突を繰り返し、やがて複数の惑星が形成された。
「テイアと原始地球は、原始惑星系円盤の同じ領域で、同じような物質が集まって形成されたと考えられる」とヘルヴァルツ氏は電子メールで述べている。月の組成のうちテイアの占める割合は30~50%程度だったというのがヘルヴァルツ氏の見方だ。
より重い酸素原子、つまり酸素-17という同位体によりテイアが特別に高い強度を持っていたとしたら、月に占める割合は30%に満たなかったであろうということだ。
可能性こそ低いものの、別の仮説も考えられる。もともとテイアと地球の化学組成は同じで、後に水を豊富に含む彗星か小惑星が地球に衝突して原始海洋が形成され、地球の酸素構造が変化したというものだ。
「ありうることだが、可能性は低い」とヘルヴァルツ氏は言う。「この場合、(月の形成後に)地球に新たに加わった物質は極めて特殊なものであったはずだ。さらに、このような特殊な組成を持つ隕石であれば、水も豊富にあったことになる」。Dan Vergano, National Geographic
News June 6, 2014