2016年4月22日金曜日

戊辰戦争で用いた土方歳三の愛刀

戊辰戦争で用いた土方歳三の愛刀、京都で常設展示 霊山歴史館が入手、29日から
*霊山歴史館が常設展示する、土方歳三が戊辰戦争で用いたとされる刀「大和守源秀国」=21日午後、京都市
 新選組で副長を務めた土方歳三が戊辰戦争で用いたとされる刀「大和守源秀国」を京都市東山区の霊山歴史館が新たに収蔵し、21日に報道陣に公開した。29日から常設展示する。

 刀の付け根には、土方の本名である「義豊」と、戦闘で使用されたことを示す「幕府侍土方義豊戦刀」の文字が刻まれている。旧幕府軍で土方の上官だった会津藩士が譲り受けたことも刀に記されている。戊辰戦争中の1868年に一緒に戦闘に参加した上官に刀を贈ったとみられる。 
 東京都在住の個人研究家が所蔵していたものを今月、幕末や明治維新の史料を集めている歴史館が購入した。

 歴史館によると、刀は幕末の1866年に作られ、長さ約68・7センチ。小ぶりで反りが浅く、「実用的な戦闘用の刀」という。つばの近くにある縁金には土方が好んだ梅があしらわれ、刀全体が当時のままの可能性があるという。現存する土方の刀は、これを含め計3本が知られている。
 歴史館の担当者は「実用刀を愛した土方らしい刀。常設展示で見学できるので、新選組や刀剣ファンに喜んでもらえるだろう」と話している。2016.4.21 19:24 産経


  (たまたま最近「燃えよ剣」を読んだところで、ちょっと気になりました)

2016年4月19日火曜日

夢の技術「人工光合成」

夢の技術「人工光合成」 光触媒派と半導体派が激論
 太陽光を活用して二酸化炭素(CO2)と水を原料に、水素やエタノールなどクリーンな資源をつくり出す「人工光合成」の実用化で、技術開発の方針を巡り議論が起きている。変換効率で先行する半導体を使う方式よりも、将来の低コスト化が期待できる光触媒方式を優先すべきだという意見が出ているためだ。石油などの化石資源が枯渇する将来、社会への大きな利益が見込めるものの、実現への道筋には多様な見方があるだけに、結論は簡単に出ない。

■光触媒派「製造コスト安く、大面積化が可能な技術」
 「人工光合成の実用化には、製造コストが安くすみ、大面積化が可能な技術しかありえない。高価な半導体を使う方式は反面教師だ」。人工光合成を社会に導入していく際の問題を提起しているのは、三菱化学執行役員の瀬戸山亨フェローだ。経済産業省が2012年度から10年計画で取り組む「人工光合成プロジェクト」のリーダーを務める。
 瀬戸山フェローは、酸化チタン製の光触媒こそが、人工光合成の本命になると信じている。基板に塗布して焼けば、水を水素と酸素に分解する中核部品ができる。部品の製造コストは1平方メートル当たり数百円の水準ですむと試算する。

経産省「人工光合成プロジェクト」の概要 (1)光触媒(2)分離膜(3)合成触媒の3つが開発テーマ(NEDOの資料による)
経産省「人工光合成プロジェクト」の概要
(1)光触媒(2)分離膜(3)合成触媒の3つが開発テーマ(NEDOの資料による)
 3月にはプロジェクトに参画する東京大学やTOTOなどと共同で、10センチメートル角の光触媒シートを試作し、太陽エネルギーの変換効率1.1%を達成した。植物の同0.20.3%を上回っており、プロジェクトの最終年度にあたる21年度までに、実証試験に移行できる水準の同10%前後にまで高める目標だ。

■半導体方式 コストは高いが、変換効率は世界最高
 この論争で旗色が悪いのは、真空装置など高価な製造装置が必要な半導体を何枚か組み合わせて水を電気分解し、ギ酸やエタノールなどの有用物質の合成を目指す方式だ。日本ではトヨタ自動車グループの研究開発会社、豊田中央研究所(愛知県長久手市)やパナソニック、東芝がこの路線を手掛けている。

*豊田中央研究所は人工光合成で世界最高の変換効率を実現している
 3社は製造コストの試算はしていないが、一般的なシリコン半導体による太陽電池の製造コストから判断して「1平方メートルあたり2万円を切る安さにするのは相当困難なはず」(瀬戸山フェロー)と考えられている。光触媒に比べ、およそ100倍の差がある。太陽光を受ける大きな面積の人工光合成システムに採用するために、コスト低減は確かに大きな壁になる。
 半導体を使う方式では、豊田中研が太陽エネルギー変換効率で4.6%と世界最高記録を出している。豊田中研の森川健志シニアフェローは、製造コストや大面積化の問題を今後の課題と認めながら「11年に0.04%だった効率を4.6%にまで高めた。研究の積み重ねで多くの知識が得られ、半導体路線を否定する意見は受け入れられない」と反論する。

*企業の人工光合成研究の事例
企  業概    要
豊田中央研究所ギ酸合成の実験に初成功。太陽エネルギー変換効率4.6%と世界最高値を記録
パナソニックギ酸、メタンの合成に成功
東芝一酸化炭素、エチレングリコールの合成に成功
三菱化学、TOTO、国際石油開発帝石、富士フイルム、三井化学、住友化学経済産業省の「人工光合成プロジェクト」に参加
富士化学工業、マツダ、新日鉄住金化学大阪市立大学の人工光合成研究センターと共同研究

 人工光合成の使い方でも、両者には違いがある。瀬戸山フェローらは大規模な化学プラントのようなシステムで、大量にエネルギー源や化学工業原料になる水素やエチレンなどを生産するシステムを想定。コストダウンを重視する。
 一方でパナソニックや東芝は、CO2を排出する工場や発電所のような施設に併設する小規模な分散型のシステムなどを検討している。素材産業か組み立て・加工業界か、研究者が所属する業種の違いにより、人工光合成のとらえ方が異なってくる面もあるようだ。

■実用化、早くて2030年ごろ
 植物の光合成は、太陽光を受けて水を水素と酸素に分け、空気中のCO2を取り込んで糖を合成する。化学プラントでよく使われ、大量のエネルギーを必要とする高温高圧な工程はない。自然がつくり上げた、極めて精密で効率のよい反応だ。触媒を使って炭素と炭素を結合する「クロスカップリング反応」で10年のノーベル化学賞を受賞した根岸英一・米パデュー大学特別教授が推進を唱えて以降、文部科学省と経産省が資金を投じ国内の研究開発は活発になった。
 応用時期は「早くても30年ごろ」といわれる。米国や欧州、韓国など海外にも同様のプロジェクトはあるが、日本の場合、大学や公的研究機関だけでなく企業も加わっている点が大きな特色だ。国のプロジェクトに産業界出身のリーダーが就いたことで、人工光合成研究の「出口」を問う議論に火が付いたともいえる。


 文科省の人工光合成研究の代表を務める首都大学東京の井上晴夫特任教授は「広い分野の研究者が垣根を越えて議論できる研究環境が大切だ」と唱える。研究の出口の議論は歓迎するが、早々にテーマを絞り込む意見については懐疑的だ。「人工光合成の実用化に向け研究はまだまだ続く。バトンリレーのようにつないでいく必要がある」(井上特任教授)と強調している。 編集委員 永田好生2016/4/18 6:30日本経済新聞 電子版

2016年4月14日木曜日

脊髄損傷患者の脳にチップ

脊髄損傷患者の脳にチップ 指が思い通りに動く
*米オハイオ州立大提供
 脊髄(せきずい)損傷で手足にまひがある人の脳にコンピューターチップを埋め込み、指令を読み取って腕の神経に伝えることで、思い通りに手の指を動かすことができるようになったと、米オハイオ州立大学などの研究チームが14日付の英科学誌ネイチャー電子版で発表する。

 研究に協力したのは24歳の男性。6年前に交通事故で脊髄を損傷し、脳からの指令が腕の筋肉まで届かなくなった。
 研究チームは、運動をつかさどる脳の領域に埋め込むことで、腕を動かす信号を読み取るチップを開発。信号をコンピューターを介して、ひじから手首にかけてつけた130個の電極に伝え、筋肉を刺激する仕組みをつくった。
 2年前に同様の仕組みでこの男性は手を握ることができたが、今回はさらに、手の指を1本ずつ動かすことや、手首を動かせるようになった。びんをつかんで中身を別の容器に移すこともできたとしている。

 男性は「将来に対して希望が持てるようになった」と語っているという。瀬川茂子20164140642分 朝日

2016年4月13日水曜日

超小型探査機で4光年先の星へ

超小型探査機で4光年先の星へ、20年で到達 ホーキング氏ら
*スティーブン・ホーキング博士(右)らがニューヨークで記者会見
(CNN) 舞うチョウほどの大きさの小型探査機数百機が、超高速で宇宙を旅して地球から4.37光年離れた恒星系を目指す――。理論物理学者のスティーブン・ホーキング氏らが12日、米ニューヨークで記者会見してそんな壮大な計画を発表した。
このプロジェクトには米フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏も名を連ねる。1億ドル(約110億円)をかけて超小型の宇宙船「ナノクラフト」を開発し、地球から最も近い恒星系のケンタウルス座アルファ星に送り込む計画。
小型探査機は数百機を建造する予定で、それぞれの重さはわずか数グラム。カメラと光子推進装置、動力供給装置、ナビゲーション機器、通信機器を搭載する。打ち上げにはロケットを利用し、宇宙空間に到達すると小さな帆を展開する。
地球からレーザービームを照射すると、帆がビームを受けてナノクラフトが時速1億6000万キロ(光速の20%)の速度で飛行する仕組み。この速度は現在の宇宙船を大幅に上回る。
ケンタウルス座アルファ星では画像撮影やデータの収集を行って、地球にデータを送信する。

*小型機は地球からのビームを受けて光速の約2割の速度まで加速する
現在最速の宇宙船を使った場合、ケンタウルス座アルファ星に到達するには3万年ほどかかる見通し。しかしナノクラフトはその1000倍の速度で飛行でき、約20年で到達できると試算する。
ホーキング氏らは実現に向けて「ブレークスルー・スターショット」という役員会を創設。プロジェクトは米航空宇宙局(NASA)元幹部のピート・ウォーデン氏が主導し、著名科学者や技術者が顧問を務める。

実現までには長い年月を要する見通しで、最大で100億ドルの資金が必要になるという試算もある。しかし計画は既に現存する技術や実現間近の技術に基づいているという。2016.04.13 Wed posted at 13:28 JST

謎の石球

謎の石球…世界最古の人工球?
*失われた文明の「オーパーツ」か (ロイター)

 ボスニア・ヘルツェゴビナの森林から、直径約3・3メートル、重さ35トンと推定される球状の石が発掘された。調査した考古学者は「世界最古の人工球」として、失われた文明が1500年以上前に欧州で存在していたと主張する一方、複数の研究者は風化や凝固によってできた天然の石だと指摘。論争の着地点は見えないが、物珍しさから見物客が訪れていることだけは確かだという。(ロイター)2016.4.13 15:57 産経

太陽系外の生命探索へ

太陽系外の生命探索へ ホーキング博士が超高速探査機開発 「太陽系滅びる…他の星に住むしかない」
*記者会見するスティーブン・ホーキング博士=12日、ニューヨーク(AP)
 英国の著名な宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士は12日、ニューヨークで会見し、光速の5分の1という極めて速い速度で飛ぶ小型探査機「ナノクラフト」を開発し、太陽系外の惑星や生命体を探す計画を発表した。米フェイスブック創業者のザッカーバーグ氏も計画に名を連ねた。

 太陽系にもいずれ寿命が来るため、博士は「(人類が)生き残るためには他の星に住むしかない」と述べた。地球が属する天の川銀河には、居住可能な惑星が数十億個は存在するとの研究報告もある。 目指すのは、太陽系から最も近い恒星系をつくるケンタウルス座α星。地球から4・3光年離れており、現在の技術では3万年かかるが、ナノクラフトは地上の多数のアンテナがレーザー光で推力を与え続ける方式で高速を維持し、約20年で到達する。


 人類が宇宙人と接触するのは危険というのが博士の持論。仮に生命体を見つけた場合「向こうがわれわれを見つけないことを祈る」と述べた。(共同)2016.4.13 11:40 産経

2016年4月7日木曜日

巨大ブラックホール発見

巨大ブラックホール発見 太陽の170億倍の質量 宇宙の「へき地」で
*ハッブル宇宙望遠鏡などの観測データをもとにコンピューターで再現した巨大ブラックホールのイメージ図。巨大な質量のため周囲の空間がゆがめられている(NASA提供・共同)

 米航空宇宙局(NASA)は6日、ハッブル宇宙望遠鏡などの観測で、太陽の約170億倍もの質量がある巨大なブラックホールを発見したと発表した。これまで見つかった最大のものは約210億倍で、これに次ぐ大きさとみられる。

 巨大ブラックホールは通常、千個近い銀河が集まるような「宇宙の大都会」といわれる場所で見つかるが、今回は銀河が20個程度しか集まっていない「へき地」で見つかった。NASAは「銀河とブラックホールの関係を見直す必要があるかもしれない」。 
 今年2月、二つのブラックホールが合体したときに放たれた重力波を観測したと米大学を中心とした国際チームが発表して話題になったが、銀河同士が合体を繰り返すことで、今回のような巨大なブラックホールができた可能性もあるという。 秋から冬にかけ南の空に見えるエリダヌス座の方角で発見。地球からは2億光年離れている。2016.4.7 10:01 産経

2016年4月5日火曜日

世界一貧しい大統領と呼ばれた男

長いですがそっくり引用してみました。

世界一貧しい大統領と呼ばれた男 ムヒカさんの幸福論

*自宅前で手を振るムヒカ氏=モンテビデオ郊外、萩一晶撮影

 質素な暮らしぶりから、「世界で一番貧しい大統領」として注目を集めた南米ウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領が、近く出版社などの招きで初来日する。「清貧の思想」を地でいく農園暮らしの根っこには、いったい何があるのか。いまも上院議員として、国民から熱い支持を受ける政治家の自宅を訪ね、その原点を聞いた。
     ◇
 首都モンテビデオから車で30分。畑のわきの小さな平屋で、ムヒカ氏は上院議員の妻と2人で暮らす。愛車は1987年製の昔懐かしいフォルクスワーゲン。自ら家事をし、畑も耕す。秋を感じる南半球の3月。トレパン姿で出てきたムヒカ氏が、庭のベンチに腰を下ろした。

■大統領公邸に住まなかった理由
 ――とても静かですね。
 「いいところだろう。この国は自然豊かで、とても美しい。特にこんな小さな村は年寄りが暮らすには、もってこいなんだ」

 ――大統領公邸には結局、引っ越さなかったそうですね。
 「当たり前だよ。私はもともと農民の心を持って生まれた。自然が大好きなんだ。4階建ての豪邸で30人からの使用人に囲まれて暮らすなんて、まっぴらだ」

 ――アラブの富豪が、あなたの愛車に100万ドル払うと購入を申し出た噂(うわさ)を聞きました。
 「本当の話だ。息子が珍しい車を集めていると言っていたな。もちろん断ったさ。あの車は友人たちからもらった大事な贈り物だ。贈り物は売り物じゃないんだよ」

 ――「世界で一番貧しい」という称号をどう思いますか。
 「みんな誤解しているね。私が思う『貧しい人』とは、限りない欲を持ち、いくらあっても満足しない人のことだ。でも私は少しのモノで満足して生きている。質素なだけで、貧しくはない」
 「モノを買うとき、人はカネで買っているように思うだろう。でも違うんだ。そのカネを稼ぐために働いた、人生という時間で買っているんだよ。生きていくには働かないといけない。でも働くだけの人生でもいけない。ちゃんと生きることが大切なんだ。たくさん買い物をした引き換えに、人生の残り時間がなくなってしまっては元も子もないだろう。簡素に生きていれば人は自由なんだよ」

 ――幸せだと感じるのは、どんなときですか。
 「自分の人生の時間を使って、自分が好きなこと、やりたいことをしているときさ。いまは冬に向けて、ビニールハウスにトマトの植え替え作業をしているときかな。それに幸せとは、隣の人のことをよく知り、地元の人々とよく話し合うこと。会話に時間をかけることだとも思う」

 ――大都会の生活では難しいですね。
 「人間が犯した間違いの一つが、巨大都市をつくりあげてしまったことだ。人間的な暮らしには、まったく向いていない。人が生きるうえでは、都市は小さいほうがいいんだよ。そもそも通勤に毎日3時間も4時間も無駄に使うなんて、馬鹿げている」

 ――でも、東京で私たちはそうやって暮らしているのです。
 「効率や成長一辺倒の西洋文明とは違った別の文化、別の暮らしが日本にはあったはずだろう。それを突然、全部忘れてしまったような印象が私にはある」

 ――2012年にブラジルの国連会議(リオ+20)でした演説は、日本で絵本になりました。
 「このまま大量消費と資源の浪費を続け、自然を攻撃していては地球がもたない、生き方から変えていこう、と言いたかったんだ。簡素な生き方は、日本人にも響くんだと思う。子どものころ、近所に日本からの農業移民がたくさんいてね。みんな勤勉で、わずかな持ち物でも満ち足りて暮らしていた。いまの日本人も同じかどうかは知らないが」
     ◇
 60~70年代、ムヒカ氏は都市ゲリラ「トゥパマロス」のメンバーとなり、武装闘争に携わった。投獄4回、脱獄2回。銃撃戦で6発撃たれ、重傷を負ったこともある。

■獄中に14年、うち10年は独房に
 ――軍事政権下、長く投獄されていたそうですね。
 「平等な社会を夢見て、私はゲリラになった。でも捕まって、14年近く収監されたんだ。うち10年ほどは軍の独房だった。長く本も読ませてもらえなかった。厳しく、つらい歳月だったよ」
 「独房で眠る夜、マット1枚があるだけで私は満ち足りた。質素に生きていけるようになったのは、あの経験からだ。孤独で、何もないなかで抵抗し、生き延びた。『人はより良い世界をつくることができる』という希望がなかったら、いまの私はないね」

 ――刑務所が原点ですか。
 「そうだ。人は苦しみや敗北からこそ多くを学ぶ。以前は見えなかったことが見えるようになるから。人生のあらゆる場面で言えることだが、大事なのは失敗に学び再び歩み始めることだ」

 ――独房で何が見えました?
 「生きることの奇跡だ。人は独りでは生きていけない。恋人や家族、友人と過ごす時間こそが、生きるということなんだ。人生で最大の懲罰が、孤独なんだよ」
 「もう一つ、ファナチシズム(熱狂)は危ないということだ。左であれ右であれ宗教であれ、狂信は必ず、異質なものへの憎しみを生む。憎しみのうえに、善きものは決して築けない。異なるものにも寛容であって初めて、人は幸せに生きることができるんだ」

 民政復帰とともに85年に釈放されたムヒカ氏は、ゲリラ仲間と政治団体を創設。89年にいまの与党、左派連合「拡大戦線」に加わった。下院、上院議員をへて昨年まで5年間、大統領を務めた。

■「お前は王子様かというような政治家が」
 ――有権者はあなたに何を期待したのでしょう。
 「自分たちの代表を大統領に、と思ったのだろう。特に貧しい層やつつましい中間層がそうだ。特権層には好かれなかったが」
 「貴族社会や封建社会に抗議し、生まれによる違いをなくした制度が民主主義だった。その原点は、私たち人間は基本的に平等だ、という理念だったはずだ。ところが、いまの世界を見回してごらん。まるで王様のように振る舞う大統領や、お前は王子様かという政治家がたくさんいる。王宮の時代に逆戻りしたかのようだ」

 「私たち政治家は、世の中の大半の国民と同じ程度の暮らしを送るべきなんだ。一部特権層のような暮らしをし、自らの利益のために政治を動かし始めたら、人々は政治への信頼を失ってしまう」
 「それに最近の政治家は退屈な人間が多くて、いつも経済のことばかり話している。これでは信頼を失うはずだ。人生には、もっとほかに大切なことがいろいろあるんだから。たとえば、街角で1人の女性に恋してしまうことに経済が何の関係がある?」

 ――実際、既成政治への不信から米国ではトランプ旋風が起きています。代議制民主主義が機能していないとも言われます。

 「いまは文明の移行期なんだ。昔の仕組みはうまく回らず、来たるべきものはまだ熟していない。だから不満が生まれる。ただ、批判ができるのもそこに自由があるからだろう。民主主義は欠陥だらけだが、これまで人が考えたなかではいい仕組みだよ」
 「それに時がたてば、きっと新しい仕組みが生まれると思う。デジタル技術が新しい政治参加への扉を開くかもしれないし」

 「ドイツやスイスでも政治に不満を持つ多くの若者に出会った。市場主義に流される人生は嫌だという、たっぷり教育を受けた世代だった。米国でも、大学にはトランプ氏とは正反対の開放的で寛容な多くの学生がいる。いま希望を感じるのは彼らだね。貧乏人の意地ではなく、知性で世界を変えていこうという若者たちだ」
     ◇
 かつてウルグアイは「南米のスイス」と呼ばれ、福祉国家を目指して中間層も比較的厚かった。民政移管後は格差が拡大。01年のアルゼンチン経済危機の余波も受けて不満が高まり、ムヒカ氏らの左派政権誕生につながったとされる。ムヒカ氏の退任前の支持率は65%に達した。

■国家に何でも指図されてはいけない
 ――かつて収監されていた刑務所が、きれいなショッピングモールになっていますね。
 「私も行ってみたんだが、まったく驚いたよ。まさにグローバル化の象徴だ。でも、人って馬鹿だよね。簡単に宣伝に支配されて。奥さん、このクリームをつけたらシワが消えますよだなんて、うそっぱちに決まっているのに。そんなものに大枚を払うんだから」

 ――格差が広がったのは?
 「次々と規制を撤廃した新自由主義経済のせいだ。市場経済は放っておくと富をますます集中させる。格差など社会に生まれた問題を解決するには、政治が介入する。公正な社会を目指す。それが政治の役割というものだ。国家には社会の強者から富を受け取り、弱者に再分配する義務がある」
 「れんがみたいに、みんな同じがいいと言っているわけではないよ。懸命に働いて努力した人が、ほうびを手にするのは当然だ。ただ、いまはどうかね。働いてもいないような1人のために、大勢が汗水たらしている世の中じゃないか。これは気に入らない。富の集積にも限度がある」

 「怖いのは、グローバル化が進み、世界に残酷な競争が広がっていることだ。すべてを市場とビジネスが決めて、政治の知恵が及ばない。まるで頭脳のない怪物のようなものだ。これは、まずい」
 「いま中南米が抱えている最大の戦略的リスクは、いい関係を保つべき欧州諸国がテロなど自らの問題で手いっぱいになる一方で、中国が日に日に存在感を増していることだ。一国に深入りしすぎると我々が危うい。もっと関係を広げていきたいんだ」

 ――ご自身を政治的にどう定義しますか。
 「できる限り平等な社会を求めてきたから左派だろう。ただ、心の底ではアナキスト(無政府主義者)でもある。実は私は、国家をあまり信用していないんだ」

 ――えっ、大統領だったのに?
 「もちろん国家は必要だよ。だけど、危ない。あらゆるところに官僚が手を突っ込んでくるから。彼らは失うものが何もない。リスクも冒さない。なのに、いつも決定権を握っている。だから国民は、国家というパパに何でも指図されていてはいけない。自治の力を身につけていかないと」

 ――主張の異なる多くの勢力を与党にまとめるのは大変でしょう。
 「急進左派から社会主義者、中道左派まで大小30ほどの派閥を抱えている。意見が対立し、少数派に理があることもある。でも十分に話し合った末に多数決で出した結論には、みんな従うんだ。それが民主主義の流儀というものだろう。我々にはすでに45年の歴史の積み上げがある。選挙対策の野合なんかじゃないよ」

■スアレス選手を迎えに行った理由
 ――余談なんですが、14年のサッカー・ワールドカップ(W杯)ブラジル大会の試合中、相手選手にかみついたとしてウルグアイ代表のスアレス選手が国際サッカー連盟(FIFA)から厳罰処分を受け、先に帰国したとき、大統領だったあなたは空港まで迎えに行かれたそうですね。あれは、なぜですか。
 「彼はとても貧しい地区の出で、とても複雑な人生を送ってきた若者なんだ。あんなことになって心が折れそうになっていた。君は愛され、認められているんだと言って、支えてあげる必要があると思ったんだ」
 「確かにプレー中のあの行為はまずかったし、出場停止などの制裁を受けることについて異存はない。でも、チームメートから切り離し、まるで犯罪人のようにスタジアムやホテルから追い出したのは、とんでもない間違いだ」

 ――スアレス選手の反応は?
 「うれしそうだったよ。あいつは普段はとても気高い若者なんだが、頭よりもつい足首でモノを考えるところがある」

 ――日本で何をしたいですか。
 「日本のいまを、よく知りたいんだ。世界がこの先どうなるのか、いま日本で起きていることのなかに未来を知る手がかりがあるように思う。経済も技術も大きな発展をとげた働き者の国だ。結局、皆さんは幸せになれたのですか、と問うてみたいな」(聞き手・萩一晶)20163312116分 朝日
     ◇

 Jose Mujica 1935年生まれ。左翼ゲリラ、農牧水産相をへて2010~15年に大統領。12年の国連会議での演説は、日本では絵本「世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ」(汐文社)として刊行された。3月には地元記者の密着ルポ「ホセ・ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領」(角川文庫)も出版された。

2016年4月1日金曜日

尿からクローンマウス

尿からクローンマウス…山梨大・若山照彦教授ら
 山梨大学は1日、尿に含まれる細胞を使ったクローンマウスの作製に成功したと発表した。
 野生動物は押さえつけただけでも死ぬリスクがあるため、体を傷つけずに細胞を採取する必要がある。今回の研究では、より自然に近い状態で採取した少量の尿からクローンを誕生させており、絶滅危惧種の繁殖につながることが期待されている。

 実験に成功したのは、同大の若山照彦教授(繁殖生物学)らの研究グループ。同日、英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ(電子版)」に掲載された。
 研究グループは、遺伝的背景の異なる多数のマウスの尿に含まれていた細胞からDNAを採取し、4匹のクローンを誕生させた。4匹の外見は正常で、繁殖能力も持っていた。20160401 1907 Yomiuri