2020年2月12日水曜日

宇宙から届く謎の電波信号


宇宙から届く謎の電波信号、16日周期で反復と研究者
*5億光年の宇宙から反復して届く電波信号に16日間の周期性があることが分かった/Courtesy CHIME

(CNN) 5億光年離れた宇宙から地球に放射される高速電波バースト(FRB)について、研究者らがこのほど、約16日間の周期で繰り返し起きていることを突き止めた。単発で終わらず反復するFRBの存在はこれまでにも知られていたが、研究者が周期のパターンを明らかにしたのは初めて。

FRBは1000分の1秒単位の非常に短い時間で電波が銀河系外から放出される現象。今回研究者らがカナダにある電波望遠鏡「CHIME」を使って2018年9月16日から19年10月30日まであるFRBのパターンを観測したところ、16.35日の頻度で発生していることがわかった。
観測データによると、この発生源は4日の間1時間に1~2回電波を放射した後、12日間の沈黙を経て再び信号を発する。この16日間の動きに周期性が認められるという。

FRB 180916.J0158+65と呼ばれるこの信号は、同プロジェクトが昨年観測した反復するFRBの発生源8つのうちの1つ。研究者らはこれらの発生源をたどることでFRBという現象のメカニズムを明らかにしたいとしているが、ここまでの観測では共通の発生源が確認されておらず、謎は深まるばかりだ。

反復するFRBで初めて観測された FRB 121102は、矮小(わいしょう)銀河の1つを発生源として特定したが、今回のFRB 180916は、天の川銀河に似た別の銀河の腕を発生源にしているとみられる。
研究者らは複数の論文の中でFRB発生のメカニズムについて、恒星による軌道運動や、中性子星とペアになるOB型恒星の相互作用に起因する可能性を示唆する。超新星爆発の後に残る中性子星は宇宙で最小の天体ながら、太陽よりも大きい質量を有する。一方のOB型星は高温かつ巨大な、寿命の短い恒星で、この星から発せられる恒星風がFRBの持つ周期性の要因とも考えられるという。2020.02.12 Wed posted at 16:00 JST

2020年1月15日水曜日

隕石の中から50億年前の物質


隕石の中から50億年前の物質、地球上で見つかった固体で最古
(CNN) 50年前にオーストラリアに落下した隕石(いんせき)を調べていた米国の研究チームが、隕石の中から50億年~70億年前の宇宙で形成された物質を発見したと発表した。地球上で見つかった固体の中では最古の物質になるとしている。
太陽が誕生したのは46億年前とされ、今回見つかった物質は太陽や太陽系よりも古くから存在していたと推定される。こうした物質はプレソーラー粒子と呼ばれる。

隕石はスターダストなどの物質を閉じ込めるタイムカプセルの役割を果たすことがある。地球に落下した隕石のうち、プレソーラー粒子が含まれるのはわずか5%にとどまる。
この研究結果は米シカゴのフィールド博物館が、13日の米科学アカデミー紀要に発表した。
同博物館学芸員のフィリッピ・ヘック氏は今回見つかった物質について、「銀河系の星々がどのように形成されたのかを物語る」と解説する。
*プレソーラー粒子の拡大像。大きさは約8マイクロメートルだった/Courtesy Janaína N. Ávila

隕石は1969年に採集されたもので、研究チームはこの隕石からプレソーラー粒子を分離することに成功した。粒子の大きさはおよそ8マイクロメートルと極小で、年代は46億年~49億年前のものが多数を占め、一部は55億年以上前のものだった。

「我々の仮説では、こうした46億年~49億年前のプレソーラー粒子の大部分は、恒星の誕生が盛んだった時期に形成された。太陽系の創生前に、普通よりも多くの恒星が誕生した時代があった」(ヘック氏)
専門家の間では、銀河系の恒星は一定の間隔で形成されたという説と、形成が多い時期と少ない時期があったという説がある。しかしヘック氏は、「隕石からの試料によって、私たちの銀河系で70億年前に恒星が盛んに形成された時期があったことを直接的に裏付ける証拠を手にした」としている。2020.01.14 Tue posted at 12:05 JST

2020年1月8日水曜日

世界に広がるヨガ、記憶や集中力にも効果?


世界に広がるヨガ、記憶や集中力にも効果?
ヨガはなぜ世界的に受け入れられているのか
*米国コロラド州デンバー郊外のレッドロックス野外劇場で開催された「ヨガ・オン・ザ・ロック」。2100人が参加した。米国では、ストレス解消と健康増進の方法としてヨガの人気が高まっている。PHOTOGRAPH BY ANDY RICHTER
この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2020年1月号の特集から抜粋したものです。

 インドで精神修養法として発祥したヨガは、今や世界中に広まっている。米国では、健康維持法の一つとして奨励され、悟りを開いたり、さまざまな病気を治療したりする方法としても注目されている。
 ヨガの健康効果を証明するのは難しい。大半の研究は被験者が少な過ぎて結論を出せない。政府や製薬会社などの業界による助成がないことが大きな理由だ。
 米ハーバード大学の神経科学者で、ヨガの講師も務めるサト・ビル・シン・ハルサは、ヨガの効果の解明はまだ道半ばと認める。「それでも、信頼性を実証してきたといえると思います」。ハルサは不眠症やPTSD(心的外傷後ストレス障害)、不安障害、慢性ストレスに対するヨガの影響を研究し、なかでも慢性ストレスに効く有力な証拠を見つけている。

科学で見えてきたヨガの効果
 ハルサは1971年にヨガに取り組み始めた。最近では、エピジェネティクス(後天的な遺伝子の働きの変化)や、ニューロイメージング(脳機能の画像化)の研究によって身体と脳の相互作用の解明が進み、ヨガの効果も明らかになりつつあると、熱い口調で語ってくれた。つまり、ヨガのもつ力は実践者の単なる思い込みではないということだ。
 ノルウェーで行われた調査では、10人の被験者の血液を、ヨガを2時間行う前と後に採取して分析した。すると、ヨガの後では体内を循環する免疫細胞内の遺伝子が著しく活性化していることがわかった。また、乳がんを克服した患者を研究する米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のチームは、多くの疾患の原因とみられる炎症を引き起こす遺伝子の発現をヨガが抑制することを突きとめている。

 また米国立衛生研究所によると、脳の灰白質は通常、加齢とともに減少するが、長年ヨガを実践してきた人々は年齢の割には進行していないという。さらに、ヨガの実践者は、記憶や感情の抑制をつかさどる海馬や、集中力や自己認識機能に関わる部位など、いくつもの脳の領域が一般的な人よりも発達している。
 ヨガの効果はこれらの研究によって科学的に裏付けられてはいるが、古代の精神修養法であるヨガが現代のせわしないストレス社会で人気なのは、そうした理由からではない。「ヨガは人々を根本から幸せにして、現代社会を生きる力をくれます」と、ハルサは言う。 2020.01.04 ナショジオ

2020年1月7日火曜日

「宇宙人は存在する、地球にいる可能性も」


「宇宙人は存在する、地球にいる可能性も」 英国初の宇宙飛行士が断言
*英国初の宇宙飛行士のひとり、ヘレン・シャーマン氏。英紙のインタビューに「宇宙人は存在する」と断言した/Jack Taylor/Getty Images Europe/Getty Images
(CNN) 宇宙人は間違いなく存在する。地球上で人類に紛れ込んでいるかもしれない――。英国初の宇宙飛行士の1人だったヘレン・シャーマン氏が、英日曜紙オブザーバーのインタビューの中で、そんな見解を明らかにした。
シャーマン氏は1991年、当時のソ連の宇宙ステーション「ミール」を訪問した元宇宙飛行士。5日のオブザーバー紙のインタビューの中で、「宇宙人は存在する。それは間違いない」と断言した。

「宇宙には何十億という星が存在している。従って形態の違うあらゆる種類の生命が存在するはずだ」「あなたや私のように炭素と窒素でできているかもしれないし、そうではないかもしれない」。シャーマン氏はそう語り、「もしかしたら彼らは今、まさにここにいて、私たちには見えないだけかもしれない」と言い添えた。
化学者のシャーマン氏は、英国人として初めて宇宙へ飛行した7人のうちの1人だった。当時の年齢は27歳。最年少級の宇宙飛行士として、宇宙に8日間滞在した。

オブザーバーのインタビューでは、「英国初の女性宇宙飛行士」と形容されることに苛立ちを感じるとも打ち明け、「実際のところ、私は初の英国人(宇宙飛行士)だった。(女性という形容は、)そうでなければ男性と想定されてしまうことを物語る」と指摘している。
宇宙人の存在を信じているのはシャーマン氏にとどまらない。米国防総省が極秘で行っていた未確認飛行物体(UFO)調査プロジェクトにかかわった元高官は2017年、宇宙人が地球に到達した証拠はあると確信すると語っていた。2020.01.07 Tue posted at 10:21 JST

2019年11月19日火曜日

生命の起源、宇宙から飛来?


生命の起源、宇宙から飛来?隕石に遺伝物質の材料…40億年以上前に作られた可能性
*マーチソン隕石の一部。縦の長さが約2センチ(古川准教授提供)
 生物の遺伝情報を伝えるRNAの骨格を作る糖「リボース」を、隕石いんせきから初めて検出したと東北大などが発表した。過去にも隕石から糖が発見された例はあるが、生命の誕生に欠かせない種類の糖は初めてという。生命の起源となった物質が宇宙から飛来したとする説を裏付ける新たな証拠だとしている。論文が19日、米科学アカデミー紀要に掲載される。

 東北大の古川善博准教授や米航空宇宙局(NASA)などで作るチームは、1969年にオーストラリアに落ちたマーチソン隕石など3種類の隕石を分析した。
 その結果、マーチソン隕石と2001年にモロッコで見つかった隕石からリボースを発見。リボースに含まれる炭素原子の特徴を分析したところ、この分子が地球由来ではないことが確認できた。40億年以上前の太陽系誕生初期に作られ、隕石とともに地球に飛来したとみられる。

 生命を構成する物質の由来を巡っては、地球外から飛来したという説と、地球で作られたとする説がある。これまでの隕石の分析で、RNAの材料となるリン化合物などは見つかっていたが、糖は見つかっていなかった。
 地球外の有機物に詳しい東京薬科大の山岸明彦名誉教授は「欠けていた部分を埋める重要な成果。宇宙にRNAを作る材料があったと証明された」と話した。
 ◆RNA=生き物で遺伝情報の伝達やたんぱく質の合成の際に使われる鎖状の分子。糖「リボース」に別の有機化合物やリン化合物が結合した構造を持つ。 2019/11/19 07:15 読売

2019年10月31日木曜日

2つの銀河が衝突


「不気味な顔のような天体」実は2つの銀河が衝突…見える期間は1億年
不気味な顔のように見える天体(NASA、欧州宇宙機関など提供)
 31日のハロウィーンに合わせ、米航空宇宙局(NASA)は、ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた、不気味な顔のように見える天体の画像を公開した。
*撮影は今年6月。NASAによると、「顔」の正体は、地球から約7億光年離れた場所で衝突している、同じようなサイズの二つの銀河。目のような部分はそれぞれの銀河の核、顔の輪郭のように見える部分は若い星などの集まりだという。輪郭部は銀河同士が特定の方向で衝突した時だけ現れ、顔のように見える期間は約1億年に及ぶという。
 NASAはホームページで「貫くような『目』は異世界の生き物のようですが、幽霊ではありません」と紹介している。2019/10/31 18:35 読売

2019年10月19日土曜日

性別は720種類、脳がないのに学習 特異な生命体


性別は720種類、脳がないのに学習 特異な生命体、パリ動物園で一般公開
学習し自己増殖する奇妙な生き物「モジホコリ」、仏動物園で一般公開
(CNN) 明るい黄色をしていて、時速4センチの速度ではうことができ、脳がなくても問題を解決でき、半分に切断されても自己修復できる――。そんな特異な生命体が、フランスのパリ動物園で19日から初めて一般公開される。

この生命体は、単細胞の粘菌の一種モジホコリ(学名フィサルム・ポリセファルム)。植物でも動物でも菌類でもなく、性別はオスとメスの2種類ではなく720種類もある。分裂して別の個体になったり、融合して元に戻ったりすることもできる。
10億年ほど前から存在していたと思われるが、1973年5月、米テキサス州の民家の庭で増殖しているのが発見されてセンセーションを巻き起こした。

2016年には英王立協会紀要に論文が発表され、学会で脚光を浴びた。フランスの研究者によれば、モジホコリは学習して有毒物質を避ける能力があり、1年たってもその行動を覚えていることが分かった。
パリ動物園の研究によれば、迷路を抜け出す最短距離を発見したり、環境の変化を予測するといった問題解決能力も持っているという。
同動物園のモジホコリは、シャーレの中でオートミールを与えて培養し、一定の大きさになったところで樹皮に移し、テラリウム容器に入れて展示する。「アカシアの木やオークの樹皮、クリの樹皮を好む」という。
野生のモジホコリは欧州の森林の地面に生息していて、気温19~25度、湿度80~100%の環境で繁殖する。天敵は光と乾燥のみ。ただし生存が脅かされると何年もの間冬眠することもできるという。CNN 2019.10.18 Fri posted at 11:20 JST

「超計算」人類の手中に グーグル実証か


「超計算」人類の手中に グーグル実証か
人工知能(AI)などに続く革新的技術として期待される量子コンピューターが「スーパーコンピューターを超える日」が近づいてきた。米グーグルは、理論上の概念だった性能を実証し、最先端のスパコンで1万年かかる問題を瞬時に解く実験に成功したもようだ。米IBMなども研究に力を入れる。急速な進歩はいずれ人類にこれまでにない計算パワーをもたらす。AIの活用や金融市場のリスク予測などを通じ、社会にディスラプション(創造的破壊)を起こす可能性を秘める。
グーグルが「量子超越」を達成したもようだ――。英フィナンシャル・タイムズは9月、こう報じた。日本経済新聞が入手した資料によると、最先端のスパコンでおよそ1万年かかる計算問題を、同社の量子コンピューターが3分20秒で解いたという。

量子超越は、従来のコンピューターでは困難な計算問題を量子コンピューターが解く性能を指す。理論上はスパコンを上回るとされた計算性能を、グーグルは世界で初めて実証したとみられる。同社は「コメントできない」としているが、事実なら「教科書に載るレベル。歴史に残る成果」(科学技術振興機構の嶋田義皓フェロー)だ。近く正式発表するもようだ。
*

量子コンピューターは「量子力学」という物理法則に従って動く。従来のコンピューターは「0」か「1」で情報を表すが、量子力学の世界は「0であり、かつ1でもある」という特殊な状態が起こりえる。
この仕組みを利用した「量子ビット」と呼ぶ計算単位を使うことで、膨大な情報もまとめて処理できる。計算の回数が大幅に減り、時間が劇的に短くなる。グーグルは今回、53個の量子ビットを実現し、乱数をつくる計算でスパコン超えの性能を実証したようだ。

グーグルなどが量子コンピューターの研究に乗り出したのは、半導体の微細加工による従来のコンピューターの性能向上に限界が見え始めたためだ。AIなどの登場を受け、膨大なデータを扱えるコンピューターが求められている。
50~100量子ビットに到達し、開発は「NISQ」と呼ぶ中規模の量子コンピューターに移りつつある。まだ幅広い計算に使えるわけではないが、経済や産業、社会を変えると期待が膨らむ。

計算能力が足りないために、解決しない難題は多い。例えば都市部の渋滞解消。現在は無数の車がそれぞれの都合で走り、渋滞を招く。1台ずつが進む道を短時間に計算するのは困難だ。量子コンピューターを使い、車ごとに「渋滞を起こさない最適ルート」を指示できれば解消に役立つ。
AIによる画像や言語などの処理も短時間、省エネになる。計算力を生かし、個人の体質に合わせて薬を作り分けるような新たな医療の誕生も後押しできる。

量子コンピューターの「使い道」の開拓に力を入れるのがIBMだ。16年に量子コンピューターを外部の利用者にクラウド経由で公開した。世界で15万人を超す登録利用者のほか独ダイムラーや米JPモルガン・チェースなど80近い企業などと研究を進める。
日本では慶応義塾大学に連携拠点があり、銀行や化学大手が参加する。画期的な薬や材料の開発、金融市場のリスク予測などの研究が熱を帯びる。

ただし、量子コンピューターがもたらすのは「光」だけではない。革新的技術は時に脅威となる。ささやかれるのが、ネット社会が根底から揺らぐリスクだ。
現在は通信の際にパスワードなどの情報を暗号化している。最新のスパコンでも解読に時間がかかることから「安全」とみなす。量子コンピューターはこの暗号を破る恐れがある。新しい暗号技術の検討も進む。

IBMのメインフレーム(汎用機)の発売は1964年。従来のコンピューターもその前に20年ほどの黎明(れいめい)期があった。日本IBMの森本典繁執行役員は「量子コンピューターもそういうフェーズにある」と指摘する。
コンピューターの歴史で、およそ70年ぶりに起き始めた革新の動き。本格的な量子コンピューターの実用化には課題が多いが、米インテルや中国のアリババ集団なども開発に参入し、今後もブレークスルーが生まれる見通しだ。
(生川暁、張耀宇)2019/10/18 18:00日本経済新聞 電子版

2019年10月10日木曜日

2019年ノーベル化学賞吉野彰ら


2019年のノーベル化学賞、リチウムイオン電池開発の吉野彰ら3人に

(以下日経産業新聞に2011年6月21日~7月26日に連載された「仕事人秘録」を再構成)
電池が変える未来 旭化成名誉フェロー・吉野彰氏
*京都大学で量子有機化学を専攻し大学院に進んだ。研究内容は紫外線の照射反応などを調べる光化学で、光触媒のような材料の開発に役立てられるものだった。1960年に「サランラップ」を発売、70年代から住宅事業「へーベルハウス」を展開し、業容を拡大中だった旭化成に72年に就職する。歴史のある企業でありながら野武士的な雰囲気が気に入ったのだと思う。
同期は350人ほど。私はその中でも数名しかいない大学院卒の研究開発職だった。20代だったころの研究は失敗の連続だったが、そのつど将来に生かせる経験を身に付けることができた。そうしたなか、81年にチャンスが巡ってくる。

2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹・筑波大学名誉教授が80年代に発見した電気を通すプラスチック、ポリアセチレンを応用し、素材を開発する研究が始まったのだ。私は33歳。研究部門の係長になっていた。「やっと当たりくじをひけた」と直感した。
ポリアセチレンの性質を分析したところ、最も有望と感じたのは電池としての用途だった。充電することで繰り返し使用できる「2次電池」の材料に向いているのではないかと思った。80年代に入りビデオカメラなど電子機器の「ポータブル化」が新製品のキーワードになり始めていた。今と比べたらまだ大きくて不便な製品が多かったが、高電圧を発生できる電池があれば製品をもっと小型化できる。新素材を活用する好機だと思った。

高電圧を実現するには、水を電解液に使う乾電池や鉛電池だと限界がある。水の代わりに有機溶媒を使う非水系電池にする必要がある。81年当時、非水系で既に存在していたのは金属リチウム電池。ただし弱点があった。金属リチウムは1次電池、つまり「使い捨て」なのだ。金属リチウムは敏感に化学反応する。充電を繰り返す2次電池に使う場合、発火事故のリスクが大きい。私は金属リチウムの代わりにポリアセチレンを電極に使いたいと考えた。研究を進めるうちに、無水状態に置くと極めて安定する物質であることに気付いた。金属リチウムで問題になった安全性という大きな課題をクリアできる予感が高まってきた。

電池の構造を極めて単純化して説明すると、内部に負・正2つの電極があり、負極から正極へ電子を渡す。この時、逆の向きに電流が起きる。電池の性能のカギを握るのは負極。そこにポリアセチレンを使うという発想で研究を始めた。ポリアセチレンの製造工程や電解液純度を改良し、材料の性能も当初より格段に上がってきた。だが、喜ぶのはまだ早かった。いざ電池の試作となれば、正極が必要になる。ところが、ポリアセチレンの相方として使える電極材料がみつからないのだ。

研究を始めて1年たった82年12月。このまま年を越すのかと気分が重かった年末のある日、午前中に職場の大掃除があり、午後はやることがなくなった。取り寄せたまま手つかずだった海外の研究文献を何となく読み始めたら、思いがけない論文と出会った。
当時、英国のオックスフォード大学で研究していた米国のジョン・グッドイナフ教授が、80年に発表した論文で「コバルト酸リチウム」というリチウムイオン含有金属酸化物が2次電池の正極になると書かれている。しかも従来の材料より高い電圧をつくれるという。続いて「組み合わせるべき適切な負極がない」と記されていた。
ひょっとしたら私が負極にしたいポリアセチレンと組み合わせられるのでないか。83年1月、論文に書かれていた通りのコバルト酸リチウムを実際に作ってみた。ポリアセチレンと組み合わせ電池を試作する。充電できた。放電もうまくいく。旭化成に入社して10年。待ちに待った研究の大成功だった。

こうして生まれたリチウムイオン電池だが、あくまで「原型」だった。研究を進めるうちに負極のポリアセチレンの欠点が明らかになる。ポリアセチレンは高温状態で保存する際に劣化しやすかった。おまけに比重が小さい。つまり、軽くてかさばるのだ。電池の軽量化だけが目的なら問題ない。だが、小型化を実現するには比重の小ささは致命的だった。
待ち望んだ正極にコバルト酸リチウムが見つかって喜んでいたが、今度は負極の材料探しをやり直さなければならなくなった。ポリアセチレンと同じ特徴を持つ分子構造の化合物としてカーボン(炭素材料)が思いあたる。電気を通す性質があり期待したが、当時入手できたカーボンはどれも使い物にならない。

新しい材料は社内から現れる。繊維メーカーの歴史が長い旭化成は84年、宮崎県延岡市の研究所で当時注目され始めていた炭素繊維を研究していた。ガスを気体のまま炭化させて、基板上に炭素繊維を成長させる。こうすると繊維直径が0.1ミクロンという極めて細い炭素繊維ができるのだった。
製造方法の特徴から「気相成長法炭素繊維(VGCF)」と名付けられたこの素材は、負極としてずばぬけて高い性能を示した。85年、VGCFの負極にコバルト酸リチウムの正極を組み合わせた電池を試作。充電することに成功した。研究開始から4年。やっと現在使われているものとほぼ同じ構造のリチウムイオン電池が誕生した。

90年代は携帯電話や小型ビデオカメラが出回り始めたころ。消費者向け製品を製造する大手電機が先鞭(せんべん)をつける形でリチウムイオン電池の生産が始まった。旭化成はメーカーが使う材料作りを強みとしてきた企業。エレクトロニクス関連で最終製品を製造した経験が少なかった。販売ルートもない。そこでパートナーとなる有力企業を探した。
92年、東芝と折半出資でリチウムイオン電池開発・製造のエイ・ティーバッテリー(ATB)を設立。ソニーや他の新規参入企業との間で電池の小型・軽量化を競い合うことになった。事業は思い描いていたとおりに進まなかった。旭化成は8年後の2000年に、電池材料の開発・製造に専念するため東芝にATBの全株式を引き取ってもらった。東芝も04年にリチウムイオン電池から撤退。ATBの生産設備は三洋電機が買い取った。

旭化成がATBの経営から手を引いたのはちょうどITバブルのピーク。やがてバブルがはじけ、01年9月の米同時多発テロを機に世界経済が減速する。リチウムイオン電池の市場も一時的に冷え込んだ。だが、電子機器の小型化・高性能化の流れは変わらず、高性能電池の需要の見通しは明るかった。
ATBを通じてリチウムイオン電池の生産を続けている間も、旭化成では材料の開発・改良を絶えず進めていた。その中で順調に伸び始めていたのが中核部品の一つであるセパレーター(絶縁材)だった。やがてこの部品が旭化成の収益拡大に貢献するようになる。

合成樹脂の膜であるセパレーターは電池内部で正極と負極を遮断するが、完全に遮断してしまうとリチウムイオンが電極間を移動できない。電池を機能させるには、非常に微細な穴を開けておかなければならない。加工が難しいが、旭化成には技術の蓄積があった。
80年代、大量の純水を使う半導体工場などで水をろ過する特殊な膜の開発を進めていた。技術を応用し、高密度ポリオレフィン微多孔膜製品「ハイポア」を開発。80年代後半から1次電池に採用されていた。90年代にはリチウムイオン2次電池用のハイポアを発売。電極間のリチウムイオン透過効率が高く、多くのメーカーが採用した。
旭化成は2000年、電池生産から撤退する一方でハイポアの生産設備を増強した。セパレーター市場で旭化成は現在まで世界シェア首位を維持する。エネルギーの変革とEVは電池の巨大な市場を生む。勝ち続けていくにはどうしたらよいか。これからも挑戦を続けるつもりだ。 2019/10/10 2:00日本経済新聞 電子版

2019年10月5日土曜日

115億光年先、銀河の源か…形成過程の解明へ成果


115億光年先、銀河の源か…形成過程の解明へ成果
*115億光年先の宇宙で見つかった、網状のガスの広がり(青色で示されている部分)=理化学研究所提供

 115億光年先の宇宙で、複数の銀河やブラックホールの源になったとみられる網状のガスの広がりを見つけたと、理化学研究所や国立天文台などの国際チームが4日、米科学誌サイエンスで発表した。銀河などの形成の過程を解明することにつながる成果だという。

 銀河やブラックホールは、水素などのガスが供給されることで成長する。理論からは、広範囲にガスの供給源となる網のような構造があると考えられていたが、網状のガスが発する光は弱く、見つかっていなかった。 
 チームは、米ハワイ州にあるすばる望遠鏡や、チリにある欧州南天天文台の望遠鏡などを使った観測結果から、みずがめ座の方角に、縦450万光年、横300万光年の領域で網状に広がる水素ガスを確認。この広がりに沿うように、銀河やブラックホール計18個が形成されていた。

 チームの梅畑豪紀ひでき・理研基礎科学特別研究員(銀河形成)は「観測したものは、銀河などにガスを供給する大きなネットワークと言える。あるはずのものがようやく見つかった」と話す。2019/10/05 10:29 読売