2019年4月25日木曜日

脳の信号から音声に変換するシステム

脳の信号から音声に変換するシステムが世界で初めて開発される
 脳の信号を理解可能な音声に直接変換するシステムが世界で初めて開発された。人工知能(AI)と音声合成技術を活用し、ヒトの脳の電気活動をもとに、他者が明快に聞き取れる言葉へと再構築するというもので、脳とコンピュータとを接続し、直接情報を授受し合う「ブレイン・コンピュータ・インターフェイス(BCI)」の進化に向けた目覚ましい成果として注目されている。

ヒトの脳の聴覚野から音声を再構築する技術
米コロンビア大学ザッカーマン研究所のニマ・メスガラニ博士らの研究チームは、2019年1月29日、オープンアクセスジャーナル「サイエンティフィック・リポーツ」で研究論文を発表し、ディープラーニング(深層学習)と音声合成技術を組み合わせたアルゴリズムによりヒトの脳の聴覚野から音声を再構築する技術について、その詳細を示した。

人間は、言葉を発したり、何か話すことをイメージする際、脳内で特徴的な活動パターンが現れ、他者の話を聞いたり、それをイメージするときにも、特有の信号パターンが現れることがわかっている。
そこで、研究チームでは、人間の会話音声データで学習し、音声を合成するコンピュータアルゴリズム「ボコーダー」を採用。てんかんの治療を受けている患者5名を対象に、言語音を聞いているときの脳での神経活動を測定し、この測定データを「ボコーダー」に与えて、人間の脳の活動を解釈できるよう学習させた。

さらに、これら5名の被験者に0から9までの数字を数える音声を聞かせ、その間の脳の信号を記録したデータを「ボコーダー」に与えたところ、信号パターンを分析し、独自の音声を合成することに成功した。人間が理解可能な音声に変換できる確率は75%で、これまで実施された同様の実験結果を大きく上回るものであった。

怪我などで失われた会話力を修復する可能性を持つ画期的なもの
この研究成果は、疾病や怪我によって失われた会話力を修復する可能性を持つ手段として画期的なものとして評価されている。たとえば、「コップ一杯の水が欲しい」と考えると、この思考によって生成された脳の信号をシステムがとらえ、言語音声に変換されるわけだ。メスガラニ博士は「この技術によって、疾病や怪我によって話す能力が失われても、これを修復し、周りの世界とつながる新たな機会をもたらすことができるだろう」と述べている。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脳卒中などによって話すことができなくなった人々にとって、外界とコミュニケーションする力を取り戻すための大きな一歩になるかもしれない。2019年2月8日(金)16時00分Newsweek

2019年4月11日木曜日

ブラックホール撮影


ブラックホール撮影 100年越しの「存在証明」
アインシュタインの一般相対性理論に基づいて存在が予言されてから約100年、ブラックホールの姿がついに捉えられた。太陽のような恒星が何千億個も集まった銀河がどのようにできたかなどの解明につながる。一般相対性理論を超える新たな理論の発展へ突破口を開く期待もある。
*国際チームの画像は、あらゆる物質や光がブラックホールに吸い込まれて出てこられなくなる境界線「事象の地平面(イベント・ホライズン)」を捉えた。境界線がつくりだす黒い影が映り、一般相対性理論で予言されたブラックホールの実在が証明された。
2015年に初観測された重力波はブラックホールの合体で発生したが、直接の映像はない。ブラックホールに詳しい大須賀健筑波大教授は今回の成果を「はじめての直接証拠と言っていい」と話す。

*撮影されたブラックホールはおとめ座の「M87」という銀河の中心にあり、太陽の65億倍もの巨大な質量を持つ。国際チームは太陽が含まれる天の川銀河(銀河系)の中心にある巨大ブラックホール「いて座Aスター」も観測し、データの解析を進めている。ブラックホール自体はM87より小さいが、距離は格段に近いため、より鮮明な画像が得られる可能性がある。
天の川銀河をはじめ、多くの銀河でも中心に同様の巨大ブラックホールが存在。巨大ブラックホールと銀河の形成の間に関係があることは間違いない、と考えられている。巨大ブラックホールとその周りで起きている現象を調べれば、どのように銀河が生まれ成長してきたかなどがわかると考えられ、研究者の期待は大きい。
さらにブラックホールの観測は、相対性理論をはじめ現在の物理学の限界を超える新たな理論への突破口にもなる。

重力を説明する一般相対性理論は、これまでいくつかの天体現象などから正しさが確かめられてきた。1919年の皆既日食で太陽の裏に隠れた星の光が重力で曲がり、見えないはずの星が観測できた例は有名だ。
しかしブラックホールの境界線に近い場所の重力は、太陽などに比べて桁外れに大きい。重力が極限まで強くなった特別な場所でも相対性理論が成り立つのか、それとも観測と理論にズレが生じるのか。これを確かめられれば、次世代の物理理論が進むべき方向を判断する足がかりになる。

将来的には電波望遠鏡やエックス線による観測技術の進歩でさらに詳細な観測ができると期待される。今回の映像はその記念すべき第一歩だ。(編集委員 小玉祥司)2019/4/10 22:09 日経